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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-24

ふと、振り返って部屋を見た。はじめ、この部屋を持っている颪に鍵を貸してもらった時、この部屋には何もなかった。自分を見下ろすようにこびりついている、あの黒い影のほかには。

最初に、ベッドを貰った。ここで寝泊りさせて欲しいという神立に、鍵と一緒に颪がくれたものだ。「今持ってるのよりでかいベッドを買わないといけなくなっちまったからな…ほら」といって。それと、本。さくらがくれた本は、いつでもベッドの上においてあって、すぐに読めるようにしてある。他にもいくつか、彼女からは本を借りている。そして、たった一つ部屋にあるコンセントのプラグから、電源のコードを精一杯伸ばして中央においてあるコンポ。これは、“仕事”で貰ったお金で、神立がはじめて買ったものだ。今も、淡い紫色の光をぼんやりと灯して、何か奏でる時を待っている。

この部屋には、いろいろなものが増えた。そして、これからも増え続けるんだろう。

それでも夜、明かりを消したこの部屋にあるのは、自分自身の冴えた意識とあの黒い染みだけだ。

憎しみと、恐怖。怨恨と、罪悪感。

彼は様々な死に様を見てきた。懇願し、怒り、呪い、罵倒する…。顔をゆがめて、僕に向かってあらん限りの力をこめて叫ぶ顔、顔、顔。血反吐に言葉を阻まれてもなお、目だけは彼を追っている。今も。今もずっと。

首を差し出して許してもらえるのならば、そうしただろう。けれど、多分彼らが望んでいるのはそれじゃない。つまり、自分の首にどんな価値がある?自分に望まれているのは、七番だった昔も、神立である今も変わらない。鎌を振るうこの腕だ。相手が変わっただけ。暗闇の中で振るっていた鎌を、今度は明かりの中で振るうだけ。

彼はベッドに座って、幾分かくたびれてしまった本の滑らかな表紙に手を置いた。何かを知るということは、暗闇に一つ、小さな灯火が灯されるのに似ていると、彼はいつも思う。暗闇が明るくなって、周りのことが少し、見えるようになるのだ。今、歩いてきた道程を振り返れば、はっきりと見えるほどに明るい。

この本に書いてあることの全てが真実だとか、真理だとは思わないが、火打石から生まれる火花のように、はっとさせられるものは沢山ある。その火花から本物の炎を生み出すのは、自分でしなくてはいけない。



でもまだ、自分の足元を照らす灯火は、灯せていない。

窓から入り込む風が夜を告げた。

今夜は忙しくなるだろう。





「あっちの路地に、2匹逃げた!」

迷路のようなビルの谷間を縫って進む深夜の討伐隊。神立とカジマヤがビルの屋上を渡り、下を行くほかのメンバーに指示を出す。

「あっちって、どっち!?」

カジマヤの大雑把な指示に、茜さんが突っ込んだ。

「左に曲がって!2ブロック先を右!」

神立のカバーはうまく伝わった。狭い路地での討伐には鎖鎌という得物は適さないため、専ら上からの指示を担当する。


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