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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-23

「おい!」

―御免なさい…御免なさい御免なさい…

甲高い音。金属を叩く不快な音。そして何かにつつかれている。

「おい、起きんか…!」

揺れる。揺らされている…。頭で考えるより早く、体が動いた。

「うあぁああ!!」

うなり声を上げて、壁際まで飛んで下がる。知らない匂い、知らない声、知らない部屋。恐怖を感じる前に、手が腰に伸びた。いつもならそこにある鎌が…無い。

何が起きているのかわからずにすっかり混乱して、鎌を奪われた事に気づいてはじめて彼は恐怖を覚えた。

―殺られる前に…

破れかぶれになって霞む視界の奥にいる人影に飛びかかろうとした。しかし、金属の格子に阻まれ、飛び掛る代わりに、肩が外れるほどの痛みが襲った。

「大人しくしろ、犬め!」

階段下にころげ落ちた彼を見下ろしていたのは牢の番人だった。どうやら、悪い夢を見て声を上げていたらしい…決まりの悪い思いを感じながら、神立は床の上に再びうずくまった。

「騒ぐなよ!」

看守はそう言って牢のある長屋を出て行った。

もう眠るまい…見るのはいやな夢ばかりなのだから、せめて起きていて、もっと役に立つことを考えよう。

彼は、ここに来る前のことを考えた。毎日が戦いだったけれど、仲間が居て、笑顔があった。



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さくらのテストも終わり、飃が警察となにやら仕事をし、珍しく沖縄に帰ったきりだったカジマヤが久しぶりにこちらに戻ってきた夜のこと。久しぶりに皆で狩りに行くことができると、不謹慎にも神立は嬉しがった。忙しい夜になりそうだと。

雨は、降り始めたときと同じようにいつの間にか止んでいた。雫の余韻を大気中に残したまま、何者にも掻き乱される事のない静謐な雰囲気が、神立の部屋の開け放たれた窓の向こう側で、絵画のように息を潜めていた。

彼が鍵を預かるこの一室には、かつて鬼が棲んでいた。英澤茜という少女の父親だった人間が、鬼に変化したものだった。鎖につながれた彼の四肢に宿る力は凄まじく、何日かおきに、飃が封じ込める印を焼きなおさなければならなかったほどだ。彼の身長を二つ重ねてもまだあまるくらいの高さのあるこの天井に届きそうなほど、あの鬼の体は大きかった。人間が鬼に姿を…いや、全く異質になってしまうのは姿だけではないから、姿を変えるという言い方は間違っているのだけれど、とにかく憎しみに心をゆだねて鬼になった。更に、物思わぬ器物に姿を変えて仇を捜し求めている。この部屋に居て、大きく広がる壁の黒い染みを見ると…憎しみという感情の恐ろしさが伝わってくる。


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