続・Life-1
期末テストが始まった。テストは出席番号順に並んで受けるので、谷崎とも朔真とも話をしなくて済んだ。でもテストは散々。昨日のことが頭を離れず、勉強しても頭には入らないし、テスト中だって上の空。結果が返ってきたら、親にこっぴどく叱られるだろう。
でも、どうこうできる事じゃない。だってあたしの初恋は、自分の気持ちに気付く前に無残にも散ってしまったんだから…。
時間はそんな私に気を止めることもなく流れていく。このまま私だけ取り残されるんじゃないか、そんな不安が頭をよぎった。…ううん、違う。
このまま私だけ取り残されればいいのに、そんな願いかもしれない。
いずれにせよ、時は止まることなく…
いつの間にか、テストは残すところあと二日になっていた。
「頑張ろうね!」
そんな会話で友人と別れ、私は家路を歩く。最近の冷え込みは半端じゃない。そろそろ雪になるかもしれないな。
キィッ
傍に突然自転車が止まった。
「乗れよ」
朔真だった。私は戸惑う。
「いいから乗れって」
強く押され、私は言われるままに朔真の自転車の荷台に座った。流れ出す大気が頬を刺す。
ねぇ、朔真
あんたもこんな思いしてるの?
私のこと、好きで好きでしょうがないくらい好きで居てくれてるの?
それは嬉しい事だし、感謝もするよ
でもね、だったら分かるでしょう?
その人でなくては駄目って気持ち
だから私…
ごめんね、朔真…
「…朔真…」
「なに?」
彼の背中越しに聞こえる声。心なしか緊張しているように聞こえる。
「ごめん…私やっぱり…」
「いいよ…」
私の言葉を遮って朔真が言った。
「突然だったしな、お前だって好きなヤツくらい居るだろう?」
黙る私達。風だけがうるさい。
「…仄が…好きなのか?」
「…うん」
「そうか…」
朔真はそれだけ言った。少し切なげな声。それっきり、家に着くまで会話は無かった。
ごめんね、朔真
好きになってくれてありがとね―…
次の日も寒かった。登校するなり暖房に群がる生徒たち。私もその恩恵に与りながら、視線を彼らの方へ向ける。谷崎と朔真。いつもと変わりなく馬鹿をやっている。心持ち、ほっとした。
―キーンコーンカーンコーン…
テスト開始のチャイムが鳴る。先程までとは打って変わって、水を打ったように静かな教室。シャーペンを走らせる音だけが微かに響く。
「あ、雪だ」
突然誰かが言った。みな一斉に窓を見る
(言った生徒は先生にノートで叩かれていたけど)。
初雪だった。綺麗…。まるで天使の羽のようにこの街に降り注ぐ。
―たかちゃん…
はっとした。おばあちゃんの声!?
私の斜め上当たりがぼやっと霞んだ。急速に教室が色あせていく。それに相反するよう、鮮明になっていく人影。
「おばあ…ちゃん…」
にっこり笑う祖母。元気だった頃と変わらない、優しい笑み。
『たかちゃん、前に進むのよ』
「…え?」
『大切な人が出来たんでしょう?このまま気持ちを押し込めていていいの?』
懐かしい祖母の声。私は泣きそうになる。