万華(その3)-2
さらに背中を反るように逆さ吊りにされ、後ろ手を縛られた美少年が前に突き出した股間の彫
りの深い性器は、まるで生きた蚕のような皮膚の光沢を描いていた。その包皮の皺や亀頭の色合
い、そして雁首のえぐれた肉縁感、垂れ袋の弛みや睾丸の質感、何よりも縮れた陰毛すら細部ま
で淡く淫猥に描き上げられていた。
その老いた男や女たちが獣じみた欲情にまみれ、その少年の性器に顔を寄せている絵の構図に
僕は自分自身を重ね、身震いするような被虐感を覚えていた。
淡々しい微かな目鼻立ちの美少年は、その肉の官能に痺れたように瞳を潤わせ、肉体の耽溺し
きった退廃的なその輝きは、その肉体に受ける痴辱と苦痛の中でこそ、静かに得られるものだと
いうことを示していた。その肉体を痴情に満ちた芳烈とした淫戯の中で蹂躙される場面の中で、
その美少年の蕩けるような美しい体を表現していたのだった。
その画廊の磨ぎ澄ましたような冷たい空気の中に、濃密な満ち足りた時間が過ぎていく。
僕は、燿子の方にときどき視線を移しながらも絵を眺めるふりをしていた。初めて会った燿子
の艶やかな黒髪は長く肩にかかり、何よりもその薄く化粧をほどこした顔は端麗で妖しく美しか
った。そしてその薄く剃り上げた眉の下には、獰猛な生蛇のような瞳が僕の欲情をそそるような
悪寒に似た震えを与えた。
この女が喬史さんが愛した女…その美貌の容姿に僕は微かな嫉妬の感情が彷彿と湧き上がって
くるのを感じていた。やや大柄で豊満ながらも均整のとれた体の美しい線… その尻の翳りに顔
を埋めたくなるような豊満な臀部…
燿子の体全体が肉惑的で眩暈のするような妖艶ささえ漂わせているようだった。
白いブラウスからは、ふくよかな乳房を思わせるような割れ目が見える。そこからは象牙色に
冴えわたる燿子の熟した肌を感じさせた。悩ましく括れた腰つきの黒いタイトスカートからは、
黒い網目のストッキングに包まれた官能的とも思える艶めかしい脚線がすらりと伸びていた。
そして引き締まった足首とその踵の高い艶やかな光沢を持つ黒いハイヒールが、僕の被虐の淫
欲をほどよく誘うのだった。彼女の蕩けるよう体臭が、その滑らかで美しい脚先から臭ってくる
ようだった。
僕は、彼女が死んだ喬史さんの妻だとすぐに気がついた。僕は一度だけ喬史さんとその女が連
れ立って歩いていたのを見かけたことがあった。この女はどこか抑圧された性欲に喘いでいる…
僕は燿子を初めて見たときからそう思っていた。
商談の話がついたのか、老紳士は燿子の耳元に何かを囁くと、髪を伸ばした僕の方に少しだけ
怪訝そうな目をやるとその画廊から出て行った。
そして燿子はゆっくりと僕に近づいてきた。
「…あなた…は…アキラ…さんかしら」
燿子は少し興奮したように言った。彼女はまるで僕の衣服の下の肌を舐めるようにしげしげと
見つめた。まるで女の舌が僕の太腿を撫でるように這い、そして股間のものを淫靡にまさぐるよ
うな粘着質の眼差しだった。
そしてわずかにゆるんだ口元に、獰猛な獣のような淫虐な笑みが一瞬滲んだような気がした。
そのときから僕は、蜘蛛の糸に掛かった蝶のように燿子に対して被虐の欲情が沸き上がってく
るのを感じ始めていた。
その燿子のしなかな腕で僕の体に振り下ろされる鞭… そのとき燿子は、艶やかなブラウスの
胸元のすき間から見える濃い香水に包まれたような豊かな白い乳房を波打たせ、腰にぴったりと
吸いついたような黒いスカートの下のむっちりとした内腿を淫虐の秘汁で濡らすのだ。
そして燿子は僕の体を買い、僕と燿子との関係が始まったのだった。