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万華
【SM 官能小説】

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万華(その3)-1

「…僕を買いませんか…」
 あれは夫の喬史が死んでから半年後の秋だった。アキラはあの絵に魅了されるように私の画廊
に姿を見せた…。
 そして私はその蒼味を帯びたアキラの、今にも溶けてしまいそうな裸身に吸い寄せられるよう
に、私が忘れかけていた淫部の疼きを再び取り戻し始めたのだった…。


 似ていた…何かが似ていたのだ。
 私は夫とアキラのあの写真を見たときからずっと思い続けていた。睫毛のはっきりした細い目
尻、高い鼻筋…愛くるしいほどのアキラのその唇…。
 私はどうして気がつかなかったのか…。
 それは髪を伸ばしたアキラのどこかが、あの男に似ていたこと…そして、夫の喬史自身がアキ
ラとどこか似ていたことだった。
そうなのだ… アキラと喬史の顔の裏側には、あの男の亡霊のような影が漂っていることをふ
たりが写った写真によって、私は初めて気がついたのだった。
 喬史との短い生活だったが…私は夫の顔の一体どこを見ていたのだろうか…。
あの頃私は、夫に愛人がいるのではないかと疑っていた。そしてあの写真によってその愛人が
アキラであることは間違いなかったが、あのふたりの写真から漂ってくるあの男の肉の臭いは、
一体何だったのだろうか…。
 私が高校生の頃、あの男に強姦されたときの痛々しい記憶を私は決して忘れてはいなかった。
 私の膣襞の粘膜に深く滲み入ったあの男の精液の臭いから逃れるために、私はどれだけ苦しん
だことか…やがて喬史に抱かれる愛欲に溺れ、アキラの体に鞭を振り下ろす嗜虐の快感へと私は
あの男の影から逃れるために、自分の欲情をずっと引きずってきた。
 それが、あの男の幻影という掌の上で私が踊らされていたことでしかなかったことに気がつい
たのは、私の母が数ヶ月前、息を引き取るとき語った最後の言葉からだった…。


 街の通りもすっかり黄昏に包まれはじめていた。燿子の画廊は、繁華街から入った人通りの少
ない裏路地の雑居ビルの一角にあった。
 どちらかというと日本画や浮世絵が並ぶ小さな画廊だったが、その価格を見るほどに高価な絵
が多かった。僕がその画廊に初めて足を踏み入れたとき、燿子は隅のテーブルで初老の白髪の男
と何やら小声で話をしていた。
 僕は、ある一枚の絵に魅せられていた。江戸時代末期から明治初期に描かれたという作者不詳
のその珍しい浮世絵は、画廊の隅の一番目立たないところに掛けてあった。

 万華絵図と題したその絵は、どこか芳烈な魔性と妖艶な官能を鮮やかに感じさせる色彩をもっ
た美しい少年の縛り絵だった。
 この時代のおそらく縄師が描いたと言われるその縛り絵は、拷問を思わせる責め苦絵というよ
りは、妖しい縄に縁取られた美少年の裸体を美人画の形式を取りながらも、倒錯的な官能美を表
現していた。暗闇の中で瑞々しい裸体を縛られ、足首から逆さに吊された女のような美少年が、
その朱色の縄の中で艶めかしい白い姿態を晒していた。

 きりきりと亀甲羅に緊縛され逆さ吊りにされた美少年…その白肌に食い込んだ縄の肉感を痛々
しいほど官能的に描いていた。美しい黒髪を乱れるように床に垂らし、艶めかしいほどのうなじ
を見せ、女のような裸体の線を深く抉るように縛る縄… まるで生きた蛇のような縄と光沢のあ
る潤みを帯びた肌の色彩は少しも色褪せていなかった。
 そしてその逆さ吊りの過酷な責めに対して、美少年は淡い肉の愉悦に陶酔の表情を見せ、その
虚ろな瞳の奥には濃厚なエロスさえ感じさせた。その描かれた朱色の縄が、その美少年の肉体の
深部に秘められた性の快楽を肉体の表面に搾りだしていた。そしてその少年に食い入るように見
つめ寄る老いた痩せた男と女たち… その肌の色はどこまでも少年の肌とは対照的に瘡蓋に覆わ
れたような枯れた色彩で描かれてある。その見事な配色が美しかった。


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