Life-8
《はい?》
彼の声、だった。谷崎の携帯なんだから当たり前に決まっている。でも、こんなにドキドキしているのは何故?
「谷崎…」
《松浪?どないしたん》
「…会いたい」
《あ?》
驚いた声。
「今どこ?私そこまで行くから」
《おい、落ち着け。今学校出たとこや。松浪は?家か?したらそこ動かんと…》
そんなの嫌だった。少しでも早く会いたい。待つ時間が惜しいよ…
「行くから!」
《お、おいっ》
私は電話を切ると、今来た道を逆戻りする。
寒さなんて感じない
息が苦しくたって関係ない
ただ会いたいだけ…
どれくらい走った頃だろう。向かいから同様に走ってくる人がいた。その人が私に気付いて足を緩める。
「あーしんど!ほんまやんちゃなお姫様やで、お前はー」
まいったという声。私も足を緩める。
「うん、ごめんね…」
「ええ、松浪だから許しちゃる」
すぐ傍に谷崎が立った。二人ぼっち。久しぶりだ。
「なんかあったんか?」
柔らかな声に胸が圧迫される。苦しい。何なの?こんなの初めて…
私は道端にあったベンチに腰掛けた。
「こんなの、相談できるの谷崎しかいないから…」
呼吸を整えながら口を開く。
「朔真に…好きって言われて…」
沈黙。冷たい風が頬を撫でていった。
「それで、どうし…」
「よかったやん」
私の言葉を遮って、谷崎が言った。
「朔真やったらお前のこと大切にしてくれるやろーし、家も近いさかいに一緒におれる時間も多くなるやないか」
いつもと変わらない無邪気な笑顔。
「なんや、そんなことで呼び出すなやー」
私は笑えなかった。どうして笑うの?ねぇ、谷崎…
気がつくと私、一人で家路を歩いていた。周囲を見渡す。谷崎の姿は無い。
どうして笑ったの…?
私は…そういう答えが欲しかったんじゃないのに。
そーゆーんじゃ…
そこまで考えて、私はハッとした。
否定して欲しかった
あの時みたいに抱きしめて欲しかった…なんて…
私、ああ、もしかして…
「谷崎が好きなの…?」
―サワサワ…
静かに風が道を通り抜け、木葉を揺らした。その風は私をやんわり包んだ後、星空へと消えた。
胸が熱かった。
そうか、私は勘違いをしていたんだ。
この胸の熱さは命が燃えているせいだけじゃない。恋を…彼に恋をしているから。
私、谷崎が好きなんだ…
彼は私など何とも思っていなかった。さっきの会話が何よりの証拠。
仰いだ夜空があまりにも寒々しく感じられ、胸が痛くて苦しくて…瞳から涙が次々と溢れた。