Life-6
「…ねぇ」
私は立ち止まって空を見上げる。
「星があるでしょ？」
谷崎も同様に空を見る。
「彼らは何千年、何億年と生きるじゃない？木や風もさ」
私の声だけが暗闇に響く。
「それに比べて、人はたった数十年の命」
私はそこまで言って谷崎に視線を戻した。
「そんな少ない時間をどう生きろというの？友達と騒いで？恋をして？」
谷崎は黙ったまま私を見ている。
「結局みんなと別れなくちゃいけないんだよ？大切な人が出来ても、時が来ればいなくなっちゃうんだよ？」
…ジャリ…
谷崎がこちらへ近づいてくる。
「人の命が星くらいあればいいのにって思う。そうすればすごく長く、ずっとずっと一緒に居られるのに！」
――ぐいっ
谷崎が私の頭を抱え込んだ。谷崎の胸に押し付けられる形になる。
「…せやから大切な人を作らんよう、人と深く触れ合うん避けてたんか？本気で笑うたり、話したりせぇへんようにしてたんか？」
私は小さく頷いた。
初めてだった、この思いを誰かにこうやって話したこと。でも彼なら。谷崎なら―…
「阿呆。それこそつまらん人生やないか」
――ぎゅうっ
背に腕が回され、抱きしめられる私。固まる。息ができない…
「大切な人がおるからこそ生きるのが楽しぃなる。人は一人では生きられんのやで」
谷崎の心音が聞こえる。温もりが伝わる…。
「人の命はお前が言うように短い。けどな、その分時間を大切に生きるや。大切な人と一分・一秒長く一緒にいられるよう」
ああ、どうして…。燃えるように身体が熱い。心が…熱い…
谷崎が私を放した。彼を見る。彼もまた私を見る。優しい瞳。
「時間が短いからこそ、燃えるような恋ができるんやぞ。それは人の特権や」
わしゃわしゃと私の髪を撫でると、谷崎は歩き出す。
「ほれ、行くで」
振り向きざまに谷崎が笑った。
「…うん」
ああ、そうか。この熱さは命が燃えている熱さなんだ。なんとなく燃えていた私の命が、谷崎に会ってから赤々とした、大きな炎となった。
さすが哲学者だな。いや、心理学者と言うべきかも。
「谷崎」
私は彼の横に並ぶ。そして心からの笑顔を彼に向けた。
「ありがとうっ」
驚いた顔をする谷崎。
「あ、お、おぉ…」
曖昧な返事をして、谷崎は視線を逸らせた。
その時、彼の頬が赤く染まっていたなんて全然知らなかった。
「宇祢ちゃん最近、雰囲気変わったね」
あの夜から一週間。体育のため、更衣室に移動していた時に突然言われた。
「表情が柔らかくなったよ。あたし、今の宇祢ちゃんの方が好き」
なんだか照れる。
「ありがとう」
私は素直にそう笑った。
今日の体育＜選択＞体育。好きな球技を選んでやれる。私はバレーを選んだ。
「あっ、やった♪」
私の傍で、今の私の方が好きと言ってくれた子――牧瀬さんが言った。
「どしたの？」
照れたような顔で私に耳打ちする牧瀬さん。
「常盤君、バスケ選んだみたくて、そしたらコート隣だから…」
あ、成る程。バレーとバスケで体育館を半分ずつ使うから、活躍が見られるという訳か。
朔真がバスケ…。てことは谷崎もだろう。
彼とはあの後もいつも通りだ。他愛のない話ばかりしている。でもそれは私や彼の友人を含んでが多い。もっと二人で話したいって思ってるのは私だけ？
…って何考えてるんだ私!?アイツはよき相談相手。それだけなんだから…