Blossom-5
「ソウは、…もしかしたら、まだあたしのことが好きなのかもしれない」
「…アンナは、何でソウのことがイヤになったの?」
「………それは」
キョウヘイの手が頭からゆっくりと頬へ移動する。アンナの流れている涙を親指でふきとる。
(…そんなこと、いえない)
誰にもいえないのだ。アンナはずっと一人で抱えてきた。視線をそらし、口を閉じる。
「いえないならいいけど、つらいんだろ」
「…うん…でも、いえない…いえないよ…」
頬でとまっていた手がアンナの肩を掴む。驚く間もなく、抱き寄せられる。キョウヘイの胸の音が頬に伝わる。
「…キョウヘ…?」
「一人でずっと悩んできたんだろ。」
「あ…ありがと…でも服ぬれちゃう…」
ふ、と見上げると、キョウヘイの顔がすぐ近くにある。いつもの何か企んでそうな顔やいじわるな顔は微塵もなく、吸い込まれそうなくらい、見つめてくる。段々と近づいてくるその真剣な顔に、瞬間、迷いなく瞳を閉じた。ゆっくりと重なった唇は、思いのほか官能的で応じてしまう。半開きになったそこに舌を絡める。全 身に甘い痺れが流れる。
「…ん」
甘い自分の声でハッと我に返る。
「うあ…やだ…」
キョウヘイは、惜しそうに唇を…離した。
アンナは体を離し、背を向ける。
「な、なんで、こんなこと…」
ガラガラ…バタン。
体育館の扉を開く音が遠くから聞こえた。
2人は息をひそめる。
バタバタ。
「いないのかな?」
リサの声が聞こえる。
「跳び箱の裏とかに隠れてるんじゃない?」
…コウヘイだ。
(見つかる……)
心臓の音が自分にも分かるくらい強くうちはじめた。
遠くにいる足音がだんだん近づいてくる。
ガタガタ……
跳び箱を移動させる音が聞こえる。
「ほこりっぽいね…」
リサの声が先ほどよりクリアに聞こえる。