はるのゆめのごとし-2
「でも、よく考えたらそんなの最初から駄目ですよね。私には暁がちゃんと全部食べたかどうかも確認しようが無いんだから」
ふふっと可笑しそうに笑って、目に浮かんだ涙が雨水に分からないように隠した。
雨水はしばらく黙っていた。
「だから、もう雨水さんからの電話にも出ません。だってその度に暁……春風の事、思い出して寂しくなる」
雨水がうんと頷く。
「雨水さんにも他の方にも迷惑をかけて、すみませんでした。暁に伝えてください。りつの事は忘れてずっと歌って欲しい、と」
雨水がはぁ?と、不快そうに声を出した。
「アイツが忘れるわけないだろ?そんな事言ったらまたりつちゃんの所行っちゃうよ」
雨水の言葉にぐっと詰まる。
何も言えなかった。
「ねえ、暁がさ、また駄目になったらりっちゃん、どうする?」
不意に雨水が尋ねてくる。
答えに困ってしまう。
「……私が行くわけにいきませんよ」
行きたいのはやまやまだけれど、という言葉を飲み込んでそう答え、雨水の言葉を待った。
「俺がさ、金平糖見守ってやるよ」
「え?」
意味が分からなかった。
「365粒なんだろう?だから、迎えに行くよ。東京駅でも羽田でも」
「え?」
鸚鵡返しに尋ねる。
雨水は楽しそうに言葉を続けた。
二本目の煙草に火をつける音と一緒に。
「きっとまた暁は駄目になる。理由は違えどさやかと同じようにりっちゃんもさ、失ったんだから」
心がずきん、と、痛んだ。
私もさやかさんと同じように、彼を突き放した……?
「でも、りっちゃんは生きてる。だから、会えるだろう?……おいでよ」
「……私、何も出来ません」
机の引き出しを開ける。
いつかの日に春風が書いた便箋が出てきて、懐かしくて指でなぞった。
「おいでよ。協力するから。……りつだって、側に居たいだろ?」
雨水さんはずるい。
分かりきったこと確かめさせるように尋ねて。