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はるかぜ
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はるのゆめのごとし-1

雨水さんから電話があったのは金平糖を置いた次の日だった。

「もしもし?りつちゃん」

居なくなった事に安心したのと、暁の様子がやっぱり気になって掛かってきた電話に出てしまった。

「はい」

短く返事をすると遠い所にいる雨水は耳元でため息をついた。

「よかった、やっと出てくれて」

一週間、たった一週間なのになんだか凄く長く感じた。暁と会わないようにして外にも出ないで、母に無理を言って金平糖を買ってきてもらって。あと私のために歌ったという暁の歌が入ったCDも。
ずっとそれを聞いて涙が滲んでいた。

「暁からだったら出ませんでした」

雨水に言うと彼はじっと黙ったまま、またため息をついた。

「……大丈夫だよ。吹っ切れてるみたいだから」

何に?と聞きたくなるのを抑えて、そうですか、と答える。

「それでね、聞きたい事があるんだ」

雨水は気を取り直したように言う。

「……聞きたい事?」

「そう。あの金平糖は何なの?」

「……どうして聞くんですか?……暁に教えるつもりですか?」

「違うよ。ここに暁も誰もいない。……ただね、お別れの品にしては少し変だなって思って」

煙草に火をつける音がする。
電話越しに煙を吐く音が続いて聞こえた。

「あれは……」



神社で暁のファンになって、東京に帰って欲しいとお願いして、聞き入れて貰って。

その後、すごく後悔した。
東京に帰ったらもう私は二度と彼に会えない。
ここ最近涙腺は緩みっぱなしで、そう思うだけで涙がじわっと浮かんできた。

だから私なりに一生懸命考えたのだ。
どうしたら少しでも彼に私の事を覚えていて貰えて彼を独占できるだろうって。
もう一度会うにはどうしたらいいだろうって。
彼の気持ちをもう一度確かめるにはどうしたらいいかしらって。

苦肉の策だった。

毎日一粒の金平糖を食べるって事は難しくない。
私が毎日薬を飲むのと一緒。

だから、本当に私の事を好きで、好きで、また会いたいと思ってくれるのなら、それくらいしてくれると思った。
それが残された唯一の絆だったら尚更。

東京に行ってちやほやされたら、今度こそ私の事を忘れてしまうかもしれないって、不安だった。


次の約束がない別れなのだから、もう会えないかもしれないのだから。

だから、あの小さな小さな金平糖たちに賭けた。


暁が、春風が、あの金平糖を全部食べてくれたのなら今度は私がずっと付いていこう、と。


雨水は私の話を聞いてふーんと小さく頷いた。



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