七夕には愛を囁いて-5
レジのチェッカーさんが読み上げながら加算していくのを二人で黙って聞いていた。
財布を二人で出して、合計をだいたい半分に割ったぐらいで互いに支払う。レシートとお釣りを受け取るあたしの脇で、重たいカゴを持ち上げてサッカー台に運び、直ぐさま袋詰めを始める。よっちゃんママの教育の賜物だ。
「見てないで手伝え。お前は軽くて潰れない物な」
一枚ビニール袋を渡し、几帳面に作業を再開させる。ざくざくと適当に詰めるあたしに溜息を零すけど、何も言わずに如月を後にする。
蒸した空気が体に纏わり付く。雨の中、また車まで走るのかと思うと気が重い。ぼんやりと光る車を目指し、諦めた気持ちで歩きだす。田舎のスーパーは駐車場が広いのが売りだが今は苦でしかない。
よっちゃんは無言で重い荷物を持つ。何も言わないところがよっちゃんの優しさで、あたしがついつい甘えてしまうところだ。
「濡れたな。とにかくホテルまで急ごうぜ」
シートに滑り込んだ体はひんやりと冷たい。雨粒を払うが、二度に渡って浴びたせいでじっとりと湿っている。
エンジンを吹かし、少し暖房をかけてよっちゃんは運転を再開させる。
近づくにつれて言葉少なくなる。二人の間に沈黙が重なる。
ドクドク脈打つ心臓。濡れた体が冷たいけど、赤くなる頬は隠せない。
夕闇に包まれた車道。雨に濡れ、ヘッドライトがキラキラ反射する。家路につく車達が反対車線を引っ切り無しに流れていく。
あたし達は違う。流れを逆行して今から目的地へと向かっている。それが恥ずかしい。誰彼構わずに、あたしとよっちゃんが今からすることを宣言してるみたいで。
カチカチ、カチカチ。左に曲がる車なんてあたし達しかいない。横道に逸れるとコンビニが手前にあって、その奥はモーテル街だ。
田舎のラブホテルはここにしかない。青少年に悪影響を及ぼすからって一箇所に纏められたモーテル街。
派手な装飾と看板、行き違う車に酷く警戒したり。後ろめたい気持ち、100%。
「どこも満室ばっかだな。悪いが適当に入るぞ」
赤いランプを避け、青いランプの光る入口から奥に進む。半周回る前によっちゃんは空いた車庫へとバックで入る。そんな馴れた様子が悔しい。初めてだって馬鹿にされそうで。
「210、だ。荷物持ったら行くぞ」
車庫の奥に取り付けられたドアから二階を目指す。細い階段を上った先に210と記されたドア。
前を行くあたしが開けるんだよね。ドキドキしながら開け、よっちゃんに押されるように室内に入ると、ピンポーンとマヌケな電子音にアナウンス。
「自動会計システムだ。びびんな」
見透かしたような呟きに顔が赤くなる。もしかして、じゃないけど、ばれてる?
「冷えたな。先に風呂にしよっか」
荷物を置いて大股で風呂場らしき場所へと向かう。
間接照明の温かい光。高い天井は竹かなんかで出来ていて、クリームとモスグリーンを主軸にしたアジアをイメージさせる内装。ダブルベッドがばーんとあって足がすくむ。
「もうすぐ溜まるだろうけど、何?」
「いや、……まずは飲む?」
ガサガサと袋を開き、夕飯とお酒と雑貨により分ける。ローテーブルに食品を置き、足元にその他の物を置くと、ソファーに二人で腰掛けて一息ついた。
「んじゃ、飲むか。はい、お疲れ」
カツンと缶を合わせると、プルタブを引き勢いよく飲み始める。
「お疲れ」
あたしも負けじと、ってよっちゃんの2/3の大きさの缶だけど、緊張を解すために勢いよく喉を潤わせる。
かぁぁぁ、とアルコール分が喉を熱くし、甘いのだがなかなか入っていかない。基本的にどうしようもなく弱いのだ。
だって一口飲んだだけで、胃からフツフツとアルコールが発酵していくみたいで頭がくらくらする。
「飲むばっかりじゃなくて食うか。ほら、コロッケ」
差し出されたコロッケ。あたしの好きなジャガ芋の甘いやつ。取り分けられるのをじっと見つめ、頭では解っているんだけど、つい甘えたくなってしまう。
「あーん、して」
口を薄く開けてコロッケを待つ。なんだか一度甘え始めると気持ちいい。
だって困った顔して厭味を言いながらだけど、よっちゃんは小さく切ったコロッケを口に運んでくれる。
「おいひい、よっちゃん、やひとりも」
もごもごしながら甘えたい放題。お酒もいつもより美味しく感じる。もっと飲んで困らせてやろう、ってのもあるけど。