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はるかぜ
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にじゅうしせっき-2

それからまた半年くらい経って、金平糖は本当に残り少なくなった。

あと3粒で食べ終わってしまう。

朝食のトーストとコーヒーを取り、最後に金平糖を口に入れる。
つんつんと突き出した部分が自分の犯した罪をつついているようでいつも切なくなる。

あんな風にさやかを亡くさなかったらりつにも会えなかった。けれど、りつもさやかも本当に愛していた。


それから二日後。
初夏の暑さが東京を襲っていた。

冷房を控えにしていたせいかいつもより早めに目が覚め、シャワーを軽く浴びて水を滴らせたままリビングでいつものようにトーストと湯気の立つコーヒーを取った。

瓶の中をふと見るとそれが最後の金平糖で、りつのようにふんわりとやわらかいピンク色だった。

「……りつ、最後の食べるよ」

食器棚にいる金魚のグラスを見て最後の一粒を口に入れる。

ほんのり甘い金平糖をゆっくり口の中に溶かす。
目を閉じるとりつが浮かんできてふっと消えた。
ため息をついた瞬間にドアチャイムが鳴る。
時計はまだ朝七時を指した所で、あまりに早く首を傾げながらインターフォンに出ると能天気な雨水の声が響いた。

「おはよーっす。開けて」

ロビーの鍵を開けてやるとその五分後には玄関のチャイムが鳴った。

「開いてる。朝から来るなんて珍しいな」

と大声で言うと団扇を持ち煽ぎながら雨水がのろのろと入ってきた。

「迎えに来た。マネージャーさん調子悪いってさ」

テーブルの上に盛ってあるミニトマトをひとつ摘み口に入れながら雨水が言う。
俺は興味がなさそうに奥の部屋へ引っ込み着替える。

「あっれ、りっちゃんの金平糖無くなったの?」

瓶を持ち上げ眺める雨水。
シャツに腕を通しながら「あぁ」と、短く答えボタンを素早く留めた。雨水はいつからかりつの事をりっちゃんと呼ぶ。

「そっかー、残念だったな。……それとももう吹っ切れた?」

パンツを履きスーツの上着を持ってリビングへ戻る。雨水を軽く睨み、そのまま洗面所へ向かった。
濡れたままの髪に軽くドライヤーを掛け、戻ると雨水は食器棚の前に立っていた。



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