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はるかぜ
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にじゅうしせっき-3

「そろそろ、行く?」

腕時計をちらりと見ながら雨水が言う。
シンクにカップと皿を置きながら頷く。
雨水は先に玄関へ行き、よく磨かれた靴を履いて立っていた。

二人して玄関から出る。
サングラスを掛け地下の駐車場に停めてある雨水の車に乗り込んだ。

「もうりっちゃんと別れて一年くらい?」

雨水が片手で煙草を咥えながら声をかけてくる。

「それくらい」

器用にシガーライターで火をつけ美味そうに煙を吐き出した。

「ずーっと女と遊んでねぇの?」

雨水のために灰皿を引き出してやり、そのままラジオをつけた。。
ニュースと天気をちょうどやっていて聞きながら雨水に向けて頷いた。

「そんなにりっちゃんがいいかね」

両手でハンドルを持ち直し器用に運転していく。
裏道を通りあっという間にテレビ局に着く頃には9時を回っていた。
裏手の入り口に雨水は車を停めた。

「俺ね、行く所あんの。マネージャの許可は取ってあるから。リハまでには戻るよ」

「今日も?昨日もどっか行ったよな」

眉を思わずしかめて尋ねると、雨水の口元をにやりと歪ませた。ため息をつき自分の上着と荷物だけを取り車から降りる。

雨水がサングラスをずらし、左右を見てから

「早くしないと来ちゃうよ、マスコミ」

とにやりと笑いながら言い、俺がドアを閉めると同時に走り去った。


無事にその日の仕事を終えて家に帰ったのは夜中の1時だった。
結局雨水はその言葉通りに戻ってきて、仕事を普段どおりにこなしていた。どこに行ったのか聞いてもはぐらかされた。

ロビーを鍵で開けポストを覗く。いらないダイレクトメールやどこで住所を知ったのかファンレターやら、適当に見ながらエレベーターを待った。
それなりに高級なマンションのエレベーターだけあって早い。
あっという間に目の前の金色のドアが開き光が目線の先にある封筒に当たった。
顔を上げ二、三歩進んで乗り込み、最上階のボタンを押した。

数十秒後には廊下に辿り着き、いつものように玄関のドアを鍵で開けた。

真っ暗な廊下、電気のスイッチを押すと廊下が一瞬にして明るくなった。

請求書の封筒だけ破りながら靴を脱ぎ、ゆっくり歩きながら見る。

リビングのスイッチを入れてテーブルの上に封筒の束を置いてふとそこにあのグラスが置いてある事に気づいた。

あの金魚のグラスに半分だけのミルクコーヒー。




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