投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

きみおもふ。の最初へ きみおもふ。 19 きみおもふ。 21 きみおもふ。の最後へ

きみおもふ。-20

コンコン。

扉をノックし、声をかける。
「逸くん、友夏です。あの、入ってもいい?」
耳をすませる。何の物音もしない。耳が痛くなるような静寂。
………と、何の前触れもなく扉が開いた。中からは机の上の蛍光灯の光が微かに漏れている。
ドアの側に影が一つ、立っていた。
「入ってい?」
こく、とその影が頷く。友夏はドアの隙間から部屋の中へ滑り込んだ。
真っ暗。机の上のスタンドしかついていないのだから仕方ない。
「電気、点けないの?目悪くなるよ?」
「こっちの方が集中できるんだ……」
久しぶりに聞いた逸の声はかなり擦れていて、友夏はの胸は締め付けられた。

「逸くん、お願い、無理しないで」

心の声がそのまま言葉となる。友夏は傍に立つ逸を覗き込んで続けた。
「志望校、帝光学院に変えたって聞いたの。先生もお母さんも心配してたよ?国瀧だって十分いいとこなのに、どうしてそんなに帝光がいいの?」


逸は俯いたまま答えない。彼としては言えるわけがなかった。たとえ友夏であっても。
いや、友夏だからこそ。
「帝光じゃなきゃできないことがあるの?どうしても帝光がいいの?」
答えない逸に友夏は溜め息をついた。そして率直に告げる。

「私、逸くんが帝光受けるの、反対だからね!」

その言葉は逸の内で大きく響いた。何度も何度も繰り返される。


ぷつん。


突然、何かが切れた。

「ゆかに………何が分かる」
低く、震える声が闇を、静けさを貫いた。

「ゆかに俺の気持ちなんか分かりっこない!」

溢れ出す。何年も紡がれ、秘められていた全てが、今眠りから覚めようとしていた。
「ゆかはいつも自分の考えを持ってる。何をする時もさっさと決めて先に進んでしまう。だからいつも追い掛けるのは俺だ。俺だけなんだ」
友夏は口を閉ざし、逸の意図を理解しようと必死に話に耳を傾ける。
「高校受験なんていい例だ。俺が桜星受けるはずだったのはゆかも知ってるだろ。でも願書提出ギリギリでゆかが水白(みずしろ)を受けることを知った。だから俺も水白を受けた。なんでか?決まってるだろ、ゆかが、お前が居るからだよ」
「え……?」
眉をひそめる友夏。いまひとつのみ込めていないらしい。
「今回だって、俺、聞こうとして何度も聞けなくて…そしたら坂上と同じ大学だと?正直ふざけるなと思った。そうやってゆかはどんどん俺から離れていく。どんなに追い掛けても手が届かない!」
逸は悔しそうに唇を噛んだ。
「え…?待って、どうしてそれが国瀧をやめる理由なの?」
「桜乃はどこにある?帝光学院は?」
言われて考える友夏。
「……ぁ…」
思い当たる節があったのだろう、彼女は顔を上げ逸を見る。


きみおもふ。の最初へ きみおもふ。 19 きみおもふ。 21 きみおもふ。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前