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Memory
【純愛 恋愛小説】

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Memory-6

『プルルルル…プルルルル…お留守番サービスに接続します。ピーっという発信音の後にメッセージを入れて下さい。』
『もしもし涼介です。俺どんな事があっても楓と一緒に病気と戦うって決めたから。…ともかく連絡下さい。』
携帯を握りしめていた手がダランと垂れ下がる。―楓と連絡がとれない。何度電話をかけても繋がらない。

『通せないってどういう事ですか!?』
俺は凄い剣幕で突き詰める。連絡が取れなくて、どうしていいか分からなくなった俺は、楓の邸宅を訪れていた。楓の病気の告白から5日経った日の事である。悩んだすえ、どんなに治る見込みがなくても、楓と一緒にいようと俺は決めたのだ。それなのに会えないなんて…。
『ですから…その…お嬢様がお会いしたくないと…』
"いつも"の使用人の女性がためらい勝ちに言う。俺は楓本人の意志だと分かると、何だか急に力が抜けてしまった。
『……。』
先ほどの勢いもおとろえ、俺は何をいっていいのか分からない。
『病気の事聞きましたでしょう?あなたの為を思っての事だと思います…。』
そんな俺を慰めるように使用人の女性は言った。
『…今日は帰ります。』
使用人の顔にどことなく安堵が浮かぶ。
『…けど、また明日来ます。』
『えっ?』
俺の強い眼差しに使用人の女性はたじろいだ。
お前が会ってくれないなら、会えるまで通いつめてやる。きびすを返しながら俺は思った。


『涼介は今日も来たのね。』
『はい…。』
花瓶に花をいけながら、使用人はうなずく。
『バカね…。』
ゆったりとしたソファに深く腰かけていた楓は、ゆっくりと体起こす。
『明日も来るようであれば"いくら来ても無駄だ"って伝えてちょうだい。』
『あのっ…お嬢様。』
楓の言葉をさえぎる。
『なに?』
使用人の女性は言いにくそうに口を開いた。
『あの…こんな事を言っていい立場じゃないのは分かってます。けど……できれば涼介さんにもう一度だけでもお会いになって下さい。』
まつげを何度かしばたたかせた後、楓は目を伏せた。
『下がってちょうだい。』
楓はボソっと呟く。
『ですが…。』
『いいから下がってちょうだい!!』
心の中の何かを追い出すように楓は叫んだ。使用人の女性は、その声に驚いて、危うく花瓶を落としそうになる。
『す…すみませんでした。』
そう言って出ていった使用人の顔は、青ざめていた。
一人ぼっちになった部屋の中。彼女の視線は宙を泳いでいた。ゆっくりとソファに身を屈める。声を押し殺し、彼女は泣いた。

『本当ですか??』
俺の顔が自然とほころぶ。
『ええ。お嬢様が今日はお通しても良いと言っておられました。』
使用人の女性の顔からも、笑顔がこぼれる。
意地になってはいたが、3週間通いつめた俺は内心もう駄目なんじゃないかと思っていたところだ。本当に良かった…俺は心の中で喜びを噛みしめた。


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