投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Not melody from you
【その他 恋愛小説】

Not melody from youの最初へ Not melody from you 4 Not melody from you 6 Not melody from youの最後へ

Not melody from you
:Side-right
-5

「何で月が出てると昔を思い出すの?」
「月っていうのはね、私やあなたなんかが生まれるずっとずっと前からあそこにいて、みんなの記憶や思い出を記録してるの。そして時々綺麗に丸く夜空に浮かんだ時だけ、自分の記録したものを見せようとする」
千草は無表情で淡々とそんな事を言い出す。
「だったら、星も同じ役目を背負ってるんだ?」
「ええ。星も月と同じで、みんなの事を記録している」
「じゃあ何で月が丸く出た時だけ、ぼくらは昔を思い出すの?」
「月の記憶力と影響力が、一番強いからよ」
「それはなぜ?」
「月が夜空の中で一番大きいから」
ぼくはくつくつと笑いそうになった。
馬鹿にした訳ではない、純粋に、千草の考えが面白かった。
千草の思考はいつだって突発的で複雑だけど、最終的な理由は何故か単純なものが多い。
「でもそのうち、星の方が月より強い記憶力と影響力を持つかもしれないよ」
「なぜかしら」
「年々、記録媒体は小さい物程沢山の事を記録できるようになってきているからね」
「大丈夫よ。あの人達は私達の技術力なんか、全然気にしてないわ」
「どうして?」
「いつだってあんな高い所から私達を見下しているじゃない」
千草には、やっぱり叶わない。
笑いながら手元にあるコーヒーを口に運ぼうとした時、ぼくはふと浮かんだある疑問を千草に投げかけてみた。
「じゃあ、千草も今日みたいに月が綺麗な日には昔を思い出したりするの?」
「ええ、する」
「聞きたいな」
「止めておいた方がいいわ」そう言って千草は静かに首を振った。
「とても面白いものじゃないから」
「そんな事は無い…と思うけど」
気休めではなく、本心だった。正直、想像しただけでわくわくする。
「まぁ、話したくないなら、無理には聞かないさ」
「そうね…、今夜より月が綺麗な夜なら、月の影響力に負けて、話したくなるかもしれない」
「私に聞くな、月に聞け」
「そういう事よ」
その言葉に苦笑を返しながら、ぼくはタバコを吸う為に席を立ち、ベランダへ出た。
千草はタバコを吸わないので、千草の部屋に居る時はベランダに出て吸うようにしている。
雲一つない夜空には、相変わらず綺麗な月が浮かんでいた。
それが昔を思い出させるのなら、もう少し深く思い出してみるのも、悪くない。
月を眺めながら自分の幼稚園の頃から中学生の頃を思い出している内に、一本目のラークが灰になった。
じゃあ次は高校生の頃だなと思い、二本目のラークに火をつけたところで、ガラス戸がカラカラと開いて千草がベランダに出て来た。
慌てて携帯灰皿にタバコを押し付けて火を消す。
非喫煙者の前では吸わない。タバコを初めて吸った日からそう決めている。
それが千草ともなれば、尚更だ。
「どうしたの?」とぼくは聞いた。
ぼくがこうしてベランダでタバコを吸っている時に、彼女もベランダに出て来る事はかなり珍しかった。
「あなたが初めて会った時の話しをするから、私もあなたと初めて会った時の事を、思い出しちゃったのよ」
千草はぼくの隣に立ち、テラスに身を預けて、月を眺めた。
しばらく沈黙が続いた後、千草はためらいがちに口を開いた。
「…あなたみたいな人ね、実は結構居たわ」
「ぼくみたいな人?」
「興味本位で、私に近づいてくる人」
「あぁ、なるほど」
「否定しないのね」
「何を?」
「最初は興味本位で近づいた、という事」
「ああ」
ぼくは苦笑した。
そこは、否定すべきだったか。


Not melody from youの最初へ Not melody from you 4 Not melody from you 6 Not melody from youの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前