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Not melody from you
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Not melody from you
:Side-right
-4

ステレオストレンジ


「変」という言葉は一種の精神的な逃げ道であるように、ぼくは思う。
人が自分には理解できない視覚的、聴覚的、或いは感覚的な情報を得た時、人はまずそれに対して当てはまる言葉を脳の何処からか引っ張り出そうとする。
脳の上辺を探し、見つからなかったらもう少し奥を探し、尚も見つからなかったら脳の最深部まで意識を潜らせる。
それでもどうしてもそれに対して自分がしっくりとくる言葉が見つからなかった時、そんな時に初めて人はそれに対して非常用の言葉を用いる。
それが「変」だ。
自分の理解の範囲外のモノを目の当たりにした時、人は自己を保つ為に一旦逃げる。
その捨てゼリフ、「変」。
多くの人が一生に何度かは使った事があるだろう。
何か変な音がする。変な味だね。変な人もいるね。変な場所だ、近寄らないようにしよう。
こんな風に。
今目の前に居る千草も、大半の人にその捨てゼリフを当てはめられた口だ。
事実千草を知る人が彼女について最初にぼくに語った言葉は、「変なやつだよ」だった。
だが本来マイナスなイメージを持つその言葉に、ぼくは何故か無性に惹かれた。
その言葉がぼくらの出会いのきっかけなのだとしたら、友人はまさしく使い古された言い方でいうキューピットだろう。
いや、例えその言葉が無くても遅かれ早かれ、ぼくは千草に惹かれていた気がする。
千草と最初に会話した時、その事は今でもはっきりと覚えている。
そう、あれは学食で千草が1人で昼食をとっているのを偶然見かけた時だ。
「千草さん」
「…どなた?」
「山本って知ってる?君と同じ高校だったらしいけど」
「あぁ…山本君」
「そいつの知り合い。つまり君とぼくは知り合いの知り合い」
「随分と遠い関係ね」
「あはは、うん、そうだね」
その時ぼくが千草に話しかけたのは、実は千草の前に並べられた昼食のメニューに起因する。
だって、普通はしないだろう。
フランスパンとアジの塩焼きと杏仁豆腐なんて食べ合わせは。
「面白い…組み合わせをしてるね」
「洋、和、中」
「え?」
「三つの別々な進化を遂げた種族が、一緒にいてもケンカしないかどうか、試してる」
「ああ、なるほどね。ケンカしてない?」
「ダメね、仲が悪いみたい。今のところ洋が一番ケンカ強いわ」
「何で?」
「堅いから」
千草の思考はとにかくエキセントリックでミステリアスで、妙にホットで、やけにクールだった。
洋食と和食と中華のケンカ?
その中でフランスパンが一番強い?
しかもその理由が堅いから?
そんな事、千草の他に誰が考えつくだろう。
そんな千草の特異な感性に、ぼくは自分でも戸惑う程惹かれていくのを感じた。
その会話以降、ぼくはあの手この手でどうにか千草との接点を増やしていき、それから少しの時間が経って、今ではこうして千草の恋人という立場で千草の部屋に出入りする事を許可されている。
ふと思い出した昔の事を、テーブルの向こうに座る千草に話した。
「月が出ているからかもしれないわね、昔の事を思い出すのは」
千草は窓を見上げたまま、そう言った。
「月?」
「そう、月」
千草の指先が窓の向こうを差す。
見てみるとその先には綺麗な満月がポツンと一人で浮かび上がっていた。
また始まったぞ。とぼくは少しわくわくした。


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