水泳のお時間〜2時間目-2
新しいビキニに着替え、ドキドキしながらプールサイドに出てみると、そこにはもう瀬戸くんがベンチに腰をかけて待っていた。
それを見た瞬間、わたしは慌てて瀬戸くんの元へと駆け出す。
「ご、ごめんなさい遅くなって…」
「いや、俺も今来たところだよ」
瀬戸くんはそう言って笑ってくれたけど、わたしは数分でも瀬戸くんを待たせてしまったことが申し訳なくて、いたたまれなくて…。
そのままうつむいて落ち込んでしまったわたしに、瀬戸くんはフッと微笑んで囁いた。
「今日はスクール水着じゃないんだ」
「あっ…えっ、えとっ、これは…元々家にあって…そ、それを…」
「ビキニは持って無かったんじゃなかった?」
「えっ?あっ……」
瀬戸くんに見せたくて買ったなんて言えず、とっさにウソをついてしまったわたし。
けれどそれはあっけなく見破られてしまい、オロオロしていると、瀬戸くんは悪戯に微笑んできた。
「本当のことを言ってよ。なんでビキニ着てきたの?」
「そ、それは……」
「正直に言わないと水泳教えてあげないよ」
「!ご、ごめんなさ…ほ、本当はわたし…瀬戸くんに見てもらいたくて…それで…っ」
「そう。それで買ったんだ。俺に見せたくて」
「は、はぃ…」
いとも容易く言い当てられてしまい、わたしはみるみるうちに体を縮こませた。
どうしよう、恥ずかしい…。
瀬戸くんに見せたくて買ったなんて、自意識過剰みたく思われちゃったかな…。
もちろん自分の体型に自信なんて無いし、本当はこんな姿…恥ずかしくてたまらないのに…っ
「あ、あの……わたし…」
「そっか。すげー嬉しいよ。桐谷が俺のためにそこまでしてくれるなんて」
「!瀬戸く…」
瀬戸くんの言葉にわたしは思わず顔をあげる。
するとそんなわたしを瀬戸くんは目を細めて見つめたかと思うと、優しく微笑み返してくれた。
その甘いマスクに、わたしは一瞬で心奪われてしまって…。
急いで来たはずなのに、それでも瀬戸くんを待たせてしまったこと。それはとても申し訳なく思ったけれど、確かに瀬戸くんはわたしよりも早くここに来て、待っていてくれた。
それはつまり、その…ほんの少しは期待してもいいのかな。
わたしが一秒でも早く瀬戸くんに会いたいと思うように、瀬戸くんも少しはわたしに会うことを楽しみにしていてくれたのかな…。
「それじゃあ今日は一人でプールに入ってみようか」
「う、うん…っ」
昨日と同じように準備運動とシャワーを浴び終えたら、再びやってきた…二回目の入水。
今日は、一人で…。
瀬戸くんの言葉にわたしは思わず息をのみ込むと、決意を決めたようにプールに向かって腰をおろした。
目の前に映るのは、まるでそこだけ時間が止まったみたいにピンと張った水面。これなら今日は水面の底もはっきり見えるけれど、音も動きもないプールは逆に不気味にも思えてしまう。
だけど今日はもう昨日みたいに恐がってなんかいられない。
後ろでは瀬戸くんがわたしを見てる。
勇気を、出さなくちゃ。