投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

face【 顔 】
【純愛 恋愛小説】

face【 顔 】の最初へ face【 顔 】 1 face【 顔 】 3 face【 顔 】の最後へ

face【 顔 】-2

『米国の民間旅客機が、サンフランシスコ近くのコースト山脈、山腹に墜落…死傷者多数の模様』
 アパートで、テレビの画面に映し出される、乗員乗客の日本人名簿を見ていた。
 柊一は、婚約者の名を目にして、驚愕の声をもらした。
「そんなバカな…なにかの間違いだろう…」

 その時…部屋の電話が鳴った。
「もしもし…」
 柊一が受話器を取ると、泣き出しそうな高校生の声が聞こえてきた。
『あっ、友彦です。柊一さんテレビ見ました?』
 それは、婚約者の妹のBFで以前…四人で、テーマ・パークに遊びで行ってから親しくなった、高校生の友彦だった。

 友彦は電話の向こう側で、声を震わせて喋り始めた。
『杏里の乗った旅客機が…名簿に杏里の名前が…オレ、オレ…』
「落ち着け、まだそうと決まったワケじゃない」
 途切れながら泣き声で話す友彦を、叱咤しながら柊一も、不安は隠しきれなかった。
『でも…ロサンゼルスから経由して、サンフランシスコに行くって話していたし…』
「搭乗をキャンセルした、可能性もあるじゃないか…二人は生きているって、信じるんだ! 旅行会社や大使館に電話して確認してみる…ボクが直後、現地に飛んで確認してくるから」
 そう言って、友彦を励ます柊一ではあったが…やはり心の中は、不安にあふれていた。
(無事でいてくれ…花梨…)

 四日後…花梨と杏里の両親の代理を兼ねて、直行便で渡米したサンフランシスコから…。
 事故機の犠牲者が収容されている、総合病院で二人の安否を確認して回る柊一の姿があった。

「日本人の…花梨と杏里という姉妹の病室を知りませんか?」
 まだ、死傷者の処置で騒然とした雰囲気の続く、院内で柊一は看護婦や医師に聞き回った。

 航空事故の犠牲者は、市内の病院に分散して収容され…この病院に日本
人らしき死傷者が、数名…運び込まれたと、柊一は聞いた。
「日本人なんです…名前は花梨と杏里…」

 総合の受付で聞いても、黒人の看護婦は今は混乱しているので…患者の身元確認までは…と、言って首を横に振るばかりだった。

 柊一は疲れたように、ソファに座り込んで。頭を抱えた。
(花梨…)
 その時…一人の日系人らしい若い医師が、柊一に日本語で話しかけてきた。
「カリン…と、言うネームの患者を探しているのですか?」
 その言葉に…顔を上げる柊一。
「ご存じですか? あなたは日本語が話せるのですか?」
「少しだけ…学生の時に日本に留学していました…カリン、と言うネームに聞き覚えがあります…身内ですか?」
「婚約者です…教えてください! 二人は無事なんですか?」
「来てください…」

 柊一は日系の医師に、案内されて、ある病室にやってきた。

 ベットの上に、顔全体に包帯を巻かれた一人の女性が横たわっていた。呼吸器のチューブを口にくわえた、その患者の薬指には、柊一がプレゼントした、プラチナの婚約指輪がはめられていた。
「花梨……」
 柊一は、そっと指輪のはめられた女性の手を握り締めた。
「フィアンセですか?」
 柊一は、静かにうなづいた…。
「婚約指輪です…良かった…花梨」
 柊一の目から、こぼれた涙が…昏睡している女性の手に落ちる。
「あの事故で、生き残ったのは奇跡でした…」
 日系人の医師が、語り始めた。

「機体から投げ出されて…体の方は軽い打撲で済んだのですが…ただ、顔の方は…」
 医師は、少し悲しそうに包帯の巻かれた花梨を見る。
「樹木に激突したらしく、かなり損傷していました…幸いにも、この病院には世界的に有名な、外科整形の名医がいたので …持っていたパスポートの写真を元に【顔】を復元しました…」
「そうですか…」
 柊一は、包帯の巻かれた花梨の顔を眺めた。
「命が助かっただけでも良かった…もう一人、一緒に旅行をしていた杏里という高校生を知りませんか? 彼女も日本人なんですが」
 その質問に医師は、首を横に振った。
「遺体は、機体の周囲ににバラバラの肉片状態で散乱していて、判別は不可能だったそうです…日本人で生き残ったのは、彼女しか…」

 柊一は、それ以上聞くことはできずに…婚約者の手を握り締めた。
 そして、二週間後…顔に包帯を巻かれたまま、意識のもどった花梨は、日本の病院で、治療を続けるために柊一に連れられて帰国した。
 遺骨代わりの…妹の遺品と、ともに…。


face【 顔 】の最初へ face【 顔 】 1 face【 顔 】 3 face【 顔 】の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前