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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの友情-6

「あっ、絢音…大丈……」
肩で息をする水沢の姿を確認するや否や、聖がとっさに駆け寄ろうとした。
だが俺は、すぐさまその腕を捕まえて動きを制する。
どうしても、あっちには行かせたくない。博也が居る方には……

博也は不自然な笑みを浮かべたまま、ジッと俺を見据えている。
相変わらず、目だけが全く笑っていない嫌な笑顔だ。
博也が言いたいことは、聞かなくてもだいたいの想像がつく。
きっと、俺と同じだろう。

この状況を理解出来ていないであろう聖は、困ったようにキョロキョロと、全員の顔を見比べている。
聖の方を見なくても、その動きがなんとなく分かった。
なのに俺は、聖の腕を放すことも、博也から視線を離すことも出来ないでいる。
そうしたら最後…博也に聖を取られてしまいそうで、恐い。


「俺は退くつもり無いから」
しばらくして博也は、俺を見据えたまま口を開いた。
だが、そう言われても、俺にだって退くつもりなんかは更々無い。

すると博也は、俄に俺から視線を外して、フッと表情を和らげた。
「宮木さんが困ってるね。光輝のせいで委員会の仕事も中断されちゃった事だし、今日はもう帰ろうか?送るよ?」
優しくて自然な笑顔を聖へと向けて、穏やかに言葉を発する。
それは、当たり障りのない会話に切り替えたかの様にも聞こえるが、恐らくそうではないだろう。
ここで聖が博也を選べば、俺は退かざるを得ないし、俺を選べば、博也は退かざるを得ないのだから。

「え、えっと…わ、私は……」
さすがの聖も、少しはこの状況を理解出来ているらしい。
どうするか決められずに、ただただ、困惑の声を漏らしている。

「ねぇ、松田っ!」
困るばかりの聖を見かねたのか、今まで静かだった水沢が、場違いな程に明るく声を上げた。
「私の存在、完全に忘れてるでしょ?」
「は?」
「忘れられてる方の身にもなってみなさいよ!虚しいのなんのって……」
これには博也も、意表を突かれたらしい。
ぽかぁんと、だらしなく口を開けて固まっている。

「あ〜、なんか疲れちゃった!」
そんな博也の様子にはお構いなしで、水沢はいかにも『疲れてます』と、大げさに首や肩を回した。
「ねぇ、聖…ちょっと付き合ってくれない?」
「へ?な、何に?」
「ん〜、そうだなぁ…今日はアイス!駅前に新しく出来たお店、気になってたんだよねぇ……瀬沼、私が聖を連れてっても良い?」
水沢は聖へと向けていた視線を俺に向け、そっと片目を瞑って見せた。

「俺は構わないよ、水沢」
ナイスタイミング、としか言いようがない。
今の膠着状態を考えるなら、そして、選べないで困っている聖の為を思うなら、今日は水沢と帰った方が良いに決まっている。

「博也もそれで良いよな?」
俺が同意を促すと、博也はあからさまなため息を吐いた。
博也だって、水沢の意図することが分かっているはずだ。嫌だなんて、言えないだろう。
「仕方ないね。今日のところは退いてあげるよ」
そして案の定、やれやれといった感じに同意の意を示した。


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