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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 9-5

ガラッ



三人で騒いでいた室内は途端に静まり返る。

「お父さ…」
「こんにちは!」
奏がそういう前に、俺は立ち上がって頭を下げた。
「……小僧」
お父さんは予定外の人間、つまり俺を睨むとギリ、と歯を鳴らす。
「……」
俺は真っ直ぐに目を見た。

この人に小細工は効かない。
そのことを初対面で学んだ。

直球勝負だ。

「小僧、出ていけ」
予想通りだ。
「……」
俺は微動だにしない。
「小僧!!」
お父さんの罵声で、横にいる奏がビクッとするのが見えた。
「あなた、やめましょう。彼はとても良い人よ」
お母さんが間に入る。
「お前は菓子折一つでそう判断するのか?」
お父さんは俺の持ってきたケーキの箱を一瞥して言った。
「違います、あなたも聞いたでしょう。春陽さんは奏の力になってくれているんですよ」
「…」
「それに春陽さんは、そういった気持ちで奏に接しているのではないかもしれませんよ」

やはり奏は両親には付き合う話をしていなかったらしい。

「いえ、自分は奏のことを愛しています」
「!」
「は、春陽さん?」
「……」


これは直球勝負なんだ。
俺に迷いはない。


「奏も俺のことを愛してくれています」
これは賭けだ。奏、頼む。
「……そうなのか?」
お父さんは奏を見る。
「…うん!私、春陽さんが好きなの!」
奏は顔を真っ赤にして言った。

よし、ありがとう奏。

「お父さんは春陽さんが嫌いなの?」
「……」
「私、春陽さんが好きなの」
「…奏」
お母さんは奏を見て微笑む。
「聞きました?あの奏が、春陽さんと仲良くなってからこんなに強くなったんですよ」
「リハビリをする勇気をくれたのも、春陽さんです」
「……チッ」
お父さんがもう一度俺を睨む。
「……今日は帰ります。お邪魔しました」
「…春陽さん」
「あ、ケーキは皆さんで食べてください」
俺は頭を下げて病室を出た。
扉の向こうでは一切物音がしない。


これでよかったのかはわからない。

でも、できることはやった。
あのお父さんに今更ちまちま媚びを売っても無意味だから。

これで理解してもらえれば儲けだ。




しかし、俺はそれからしばらく、奏の両親に会うことはなかった。


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