シスコン『第十章』-3
放課後
「最近…仕事ないわね」
姉貴が頬杖をつきながら言った。確かに、最近暇ではある。
忙しいと顔出さねぇくせに。
「部室の掃除でもしようか」
千里が言った。
「つっても…別に汚くないと思うぞ?」
この八畳ほどの部室は、普段適度に使わないせいか、おかげか、あまり汚くはない。
部員が三人だって事も大きな要因ではあろうが。
「汚いから掃除するんじゃなくて、やることないからするの。このままダラダラ過ごして『さよーならぁー』じゃあなんとなくね」
「オレは別に構わねぇけど…?」
「私も」
千里が意地悪く笑う。
「じゃあいいの?この部室の端にある大量の机と椅子を廃棄したら、それはそれは座り心地のいいソファが入るのに…」
オレと姉貴は顔を見合わせた。
「…仕方ない」
姉貴が立ち上がった。
「行くよ秋冬!」
「巻き込むな」
姉貴がお笑い芸人のようにコケた。
「ソファが欲しくないの!?」
「いや、欲しいけど割に合わない」
この積み上げられた机を持って階段を三階分降りて、部活動に勤しむ生徒たちを横目に100メートルほど歩き、坂をのぼってごみ捨て場に行く。パッと見てこれを三往復…か?
ダルい。ダルすぎる。
別にここに住むわけでもないし、必要ないだろ。
「わかってないわねぇ。ソファを置いたら、快適に寝れるじゃない」
「そのときは家に帰ろうぜ」
プチプチッ
あ、聞こえた。姉貴の血管の切れる音。
「つべこべ言わず動けモヤシっ子!!」
「モヤ…!!」
全てを言い切る前に、鉄拳がオレの頭に入った。
「意外と重いな…」
教室にある机と全く同じ物が十組。
オレと姉貴と千里で運ぶから、一人一個持って三往復か。
ってオイ。姉貴が一気に二つ持ち上げやがった。
「突っ込みどころが多すぎるっ!!」
「え?」
普通じゃん?みたいな顔すんな。
「何考えてんだ?」
「このほうが早いじゃん?」
「どこにそんな力が?」
「これくらいいけるでしょ」
「本当に女か?」
「女だっ!!!」
千里は笑っている。
「だいたい私が女じゃなかったらあんたも困るでしょ…?」
諭すように言ってくる。
まぁ確かに、女じゃないと困る。好きになったのが男ってのは泣ける。
「先に行くね」
千里が部室を出た。
「…ったく、信じらんねぇな」
少し遅れて、オレ達も出た。
「この情けない息子の姿を見たら、お父さんも肩を落とすよ」
「そっか、帰ったらもう親父は家にいるんだな」
単身赴任で遠くにいる親父。二、三年に一回しか会えない。