陽だまりの詩 7-4
コンコン、と優しくノックする。
「…はい」
中からは控え目な声がする。
「奏、俺だ」
「……どうぞ」
うーん、扉越しでも浮かない顔してるのがわかる。
躊躇いつつもゆっくりと扉を開けた。
「よう」
「こんにちは」
「久しぶりに雨だな」
俺はカーテンを少し開けて雲を見る。
「そうですね」
やはり奏はテンションが低い。
「…リハビリの調子はどうだ?」
折りたたみ椅子に座って奏と向き合う。
「なんとも言えないです」
これは重症だ。
奏も本当に頑固だからな…
「あのさ、アキのことだけど」
「…」
奏の体がビクッと跳ねた。
聞きたかったのか聞きたくなかったのか…
「一年ほど前に別れて、この間再会したんだけど、本当に偶然てすごいな」
俺は、ははは、と乾いた笑いで場を取り繕う。
「本当に偶然なのでしょうか」
「え?」
「アキ先生は、春陽さんに会いたくなってこの病院に来たんじゃないでしょうか」
確かに美沙がいるから、俺がこの病院に頻繁に訪れていることはアキも知っているが、考え過ぎじゃないか?
「春陽さん…」
ジワッと瞳を潤ませる奏。
「なに?」
「私…アキ先生に春陽さんをとられたくないです…」
ボロボロと泣き出す奏。
それにしても…
本当に奏はうれしいことを言ってくれる。
今の俺の生活には、奏が当たり前のようにいる。
奏も同じことを思ってくれていたんだ。
「俺はずっとここにいるよ」
奏の頭を撫でてやる。
「本当ですか?」
涙を手で拭いながらグズッと鼻を鳴らす奏。
「ああ。アキが一番大事だったのはもう一年も前の話だ」
「…」
「今は」
奏が一番大切なんだ。
「アキのことなんて考えていない」
「…」
俺がそう言うと、奏は枕に顔をうずめて黙ってしまった。
本当に度胸ないな、俺。
奏は数分経っても微動だにしないので、また来る、とだけ言って病室を後にした。