双子月3〜美月〜-1
「三日後の朝、ここに」
朝なんてこなければいい。
そんなふうに考えたのは初めてだった。
美月はいつもより早く家を出て、電車に乗った。いつもの道をいつものように。
それなのにまるで知らないところに行くみたいに不安な気持ちに美月は沈んでいた。
これから私、どうなるんだろう。
そればかりが頭を巡り、学校までどういうふうに歩いてきたか分からなかった。
学校は静かで、自分の足音だけが響いているような気さえする。
この廊下をまっすぐいけば保健室。
着いてしまった。
この扉を開いたら、私は・・・
美月が躊躇してためらっていると、突然扉が開く。
「来たな、美月。」
東条だった。
艶のないシルバーのフレームの眼鏡をかけ、白衣がよく似合う東条は、女子生徒の中で密かに人気があった。しかし、見た目も性格もクールなせいで、近付きがたい雰囲気があった。そのおかげで普段保健室も、用のない生徒はあまりよりつかない。
「入りなさい。」
そういうと東条は道をあける。朝日が差し込み保健室の中は白く、眩しく感じられた美月は顔をしかめた。
「そこにある下着をつけなさい。」
東条の机の上には真っ赤な布切れが置いてある。
美月が微かに首を傾げてその布切れを持ち上げてみると、美月がつけたことのないような派手なレースのショーツだった。
「何ですか?これ。」
ショーツにしては重量を感じられた。両手で広げてみると、頼りない薄い生地の真中に蚕の繭のような突起がある。
「はいてみれば分かる。今はいてるのを脱いでそれをはくんだ。」
美月は得体の知れないその物体にぞくりとし、手に持ったまま困惑の表情を浮かべた。
ちらりと東条の様子を伺うと、腕組みをして入口のほうに立ったきり、無言でこちらを見ているだけだった。
それがかえって威圧的に感じられ、美月は決心した。
下からスカートの中に手を入れ、自分のショーツに手をかける。
おずおずとおびえるようなその動きを東条はずっと見ている。
先生が見ている。
美月はまた、あの時の感じを思い出していた。
私の恥ずかしい姿を見られている。
美月はそう考えると、この状況の恐怖とは別な、高揚感とも言えるような感覚を覚えていた。
触れられているわけでもないのに熱をもつ体。
原因は東条の視線だろうか。
新しく身に着けた下着は想像していたよりも透けていて、視覚的にもかなり挑発している。