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《glory for the light》
【少年/少女 恋愛小説】

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《glory for the light》-38

「違う違う。この病院で死……あれ。君、今何て言った?」
「…え?」
「この病院で彼が死んだと思った。そう言った?」
「…ええ。言いましたけど、何か?」
僕が聞き返すと、彼はまた困ったように頭をかいた。少し、フケが舞い落ちる。
「君、彼がどうやって亡くなったか、知ってる?」
僕は首を振る。
前川さんは難しそうな顔をして、う〜んと唸った。
「教えて下さい。何故、彼はなくなったんですか?」
彼は考え込む。
「そうだな…彼氏なら、教えてもいいのかな。君、悪い虫には見えないし」
僕は薄々、感付いていた。
「自殺だよ。リストカット。しかも、海の中で」
自殺…やっぱり。僕の頭ではその映像が浮かんでいた。蒼い海の一ヶ所が、溢れ出した血液で真っ赤に染まっている。其所に漂う、独りの少年。
「理由は…?」
僕は訊いた。そこまでは前川さんも知らないだろう。そうは思ったが、彼の答えは予想と違った。
「…そうか、君、それも知らないか。まぁ、当然だな」
彼は踵を返した。
「彼女の前で話していい話題じゃない。外に出よう。大丈夫。鎮静剤も効いてるから、暫くは起きないよ」
僕は一度、眠っている百合に視線を投げ掛け、彼の後を追った。
―秋の涼しさではなく、初夏の涼しさが大気に漂っていた。小さな病院の前庭。もう四時過ぎなのに、正午の如く長閑な小春日和だった。
「いいんですか。抜け出して来て」
「いいの、いいの。どうせ外来患者は、医者一人で間に合うくらいしかこないんだからさ」
そう言って、前川さんは僕に紙コップを差し出した。礼を言って受け取ると、甘い香りがした。一口飲む。どうやら砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーらしい。一瞬、ココアかとさえ思った。
「苦かったかな?」
甘すぎます。そう答える代わりに、曖昧に笑ってみせた。これを苦いと言える人間を、アカネ意外に僕は知らない。
僕たちは樹木を囲む石段の上に腰を下ろした。木漏れ日の下を駆ける風が、肌に心地良い。
「…さて、例の彼が、何故、自殺したのかだったね」
僕は領ずいた。
「もしかして君、この街に来た理由の一つがそれを知るため?」
「まぁ、あわよくば」
成程…。と彼は呟いた。
「私が彼の自殺の原因を教えることは、どうしても、百合ちゃんに対する医者としての守秘義務を放棄することにも繋がるんだ。彼と私に、直接に関係性はなくてもね」
「あなたと彼を繋ぐものは、百合にあると。そういうことですね?」
前川さんは紙コップに口を付け、重々しく領ずいた。苦い顔になったが、その原因がコーヒーでないことは明白だ。
「君は聡いな」
「それはどうも。さらに言わせてもらえば、彼とあなたに直接、関係性がないと言うのは、嘘です」
前川さんは表情を変えなかった。
「どうして、そう思う?」
僕は答えた。
「確固たる証拠はありませんよ。ただ、その言葉を後に持ってきたのが引っ掛かる。僕を騙すためでなく、心の何処かで自分を擁護しようとしている。悪いですけど、単なる直感です」
前川さんは、苦笑した。
「君は、一番友だちにしたくないタイプだな。根拠のない直感で、易々と真相にたどり着く。君、専攻は?」
「国文です」
「…そうか。君は、セラピストか、探偵の素質があるよ」
「考えておきます。それで?」
ふむ。と言って、彼は領ずいた。
「さっきも話した通り、医者には守秘義務があってね。だから、適当にはぐらかそうと考えていた」
「過去系ですか?」
「…うむ。君と話しみて、考えが変わった。君になら話してもいいかもしれない。けれど私は医者という立場上、守秘義務を徹底しなければならない訳だ。そこで…」
前川さんは一旦言葉を区切り、立ち上がると、僕とは反対方向を向いて座り直す。示唆に富んだ行動だ。
「これから話すことは、私の独り言だ。何について話しているのかは、聞き手に任せようと思う」
成程。僕は思わず苦笑いを浮かべた。随分と律儀な人だ。古典的な方法だが、それが良いと言うなら、それで良い。
前川さんは、わざとらしい演技で独り言を始めた。
「え〜。…昔、と言っても三年前だが、驚いたなぁ。こんな田舎でも、あんなことってあるんだなぁ。都会じゃ普通だけどなぁ」
妙に間伸びした声に、少し馬鹿馬鹿しさを感じてしまう。
「前川さん。やっぱり、普通に話して下さい。僕等以外、誰もいないんだから、同じことです」
「あっ…やっぱ、変か?こうゆうの、一回やってみたかったんだ」
僕は溜め息を吐く。
「分かった、普通に話してしまおう。いや、話すべきだな。私にも、責任の一旦はあるんだ。君の言う通り、自分自身を擁護する訳にはいかない」
急に彼の口調が重々しくなった。
「単刀直入に言おう百合ちゃんは――


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