陽だまりの詩 3-1
少しずつ夏の匂いがしてきた昼下がり。
俺は久しぶりに病院へ足を運んでいた。
美沙はもう毎日学校に通っているため、足を運ぶ数は極端に減っていた。
だが俺は、いつも奏ちゃんのことを忘れたことは無かった。
仕事が苦しくても、奏ちゃんの笑顔を思い出せばバリバリ働ける。
そんな確信もあった。
あの子が俺のことをどう思っているかはわからない。
だけど俺は…
「「あ」」
廊下の角で偶然、奏ちゃんに出会った。
途端に俺の顔は赤くなる。
こんなこと考えながら歩くんじゃなかった…
ってなに俺は青臭い中学生みたいなリアクションとってんだ…
もう俺おっさんだぜ…
一人で落ち込む俺に何を思ったのか、奏ちゃんも同じようにボッと顔を赤くした。
まあこの顔も、もうすっかり見慣れたもんだ。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
奏ちゃんは頭を下げる。
「ちょうど部屋に向かってたんだ」
「そうなんですか?ありがとうございます」
相変わらず笑顔は眩しくて。
俺の心はぽかぽかと暖かくなる。
***
「妹さんは退院されたんですか?」
「ああ、二週間ほど前に。だから病院に来たのも二週間ぶりくらいだな」
「そうですか、よかったですね」
「それが、アイツは生まれつき心臓が悪くてな、学校が春休みや夏休みに入るとまた入院さ」
目を見開く奏ちゃん。相変わらず表情の変化が激しい。
「…それは悲しいですね…私よりも生まれつき苦しんでいる人はいっぱいいるんですね」
今度はしゅんと沈む奏ちゃん。
「まあ、アイツは幸せそうに毎日暮らしてるし大丈夫さ」
もとい、能天気に。
「天道さんに愛されてますもんねー」
「そうそう!あ、いや、家族愛だよ、うん」
「ふふ」
奏ちゃんは結構俺に慣れてくれたらしい。
最初は通じなかった冗談も返すようになったし、こうやって茶化されるようにもなった。
「そういえば、妹さんはおいくつなんですか?」
「……」
妹思いな天道さんで通っている俺だが、きっと奏ちゃんは二十ちょっとくらいの妹を想像しているだろう。
もし奏ちゃんと同い年で十六だと知れたら…今度こそ引かれるだろうか。