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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてクミコかく語りき-7

「あ……」
どうやらホールにはいないようで、こちらに気付いたジュンだけが手を振っていた。ほっと胸を撫で下ろし、思い切ってドアを開けてから、お気に入りの席についた。
ジュンがしゃがみこんであたしの左足を見つめる。
「ダイジョブか?足は」
「うん。ただの捻挫じゃけ、大丈夫」
二人の手前、平静を装ってはいたが、いつ『茅野ちゃん』と声をかけられるか気が気ではなかった。
「何にしよっかな〜」
メニューに顔を埋めて、悩んでいるふりをしているとジュンが「あ」と声を上げた。
「クミコ、ごめん。今日は珈琲がデキナイんだ。藤川オトートが休みでな」
へ!?
「藤川さん、どうされたんですか?」
滝田君、ナイスクエスチョン!
耳だけダンボで、目はメニュー。
だって、いま口を開いたら、余計なことまで話してしまいそうだもの。
「さあ……。なンか体調不良とかナントカ聞いた気がするが」
体調不良?やっぱりあたしのせい!?
だって、昨日台所で寝たとか言いよったし。
「あ〜、もう!どうしよう?」
口に出した途端にはっと我に返った。二人が目を丸くしてあたしを見つめている。
しまった!ついつい声に出してしまった。
顔を赤くしたり青くしたりするあたしを見て、滝田君がにこにこ笑った。
「そんなに悩んでたんですね」
「へっ?」
ジュンがふう、とため息をついてこう言った。
「クミコ。今月の一押しは『さくらレアチーズ』だぞ」
「あっ……、うん!それ。それにする」
あたしは息をゆっくり細く吐き出した。
……あっぶねえ。
メニューから顔を上げると、二人はまた仲睦まじくクレープについて話し合っている。
「はあ……」
なーんでこんなに気持ちが揺れるんだろう。
嫌になるわ。大学生って、もう少しオトナだと思ってたんじゃけど。
しばらくして、ホカホカのクレープがやってきた。藤川兄お手製のさくらアイスがとろりととけだし、なんともいい塩梅である。舌鼓を打っていると、ジュンが練習中だという紅茶をいれてくれた。
「い〜ぃ香り」
胸いっぱいにベルガモットの香りを吸い込む。
「だろ?クミコにはアールグレイがお似合いだからな」
カウンター越しにジュンが笑いかけた。
「良いですね」
滝田くんにはどうやらスパイシーなチャイが選ばれたようだ。確かに、彼には甘くてコクがあって、だけどクセのある感じがぴったりだ。
「お〜いし。上手やん、ジュン」
「ムフフ。そうだろう?実はな、オトートに教えてもらってるンだ」
カウンターから出てきたジュンは、腕を組みながら、不敵な笑みを浮かべた。
な、な、何なん……??
「さては。クミコも、教えてもらいたいんだな??」
「えっ!?いや、ええよぉ」
「エンリョするな。オトートはあれでなかなか先生業が向いてるンだ。いいハナヨメ修業になるぞ」
そう言うと、一枚の名刺を差し出した。そこには、藤川さんの携帯番号とメールアドレスが小さな字で詰められていた。
「うん……」
これで、藤川さんと連絡がとれる。
そう思うと、さっきまでのソワソワが引いていくのがわかった。
でも、逆に。胸がトクンと小さく鳴った。
「コーヒーも教えてくれるん?」
「わからんが、オトートのことだ。二つ返事だろ」
そういうと、ジュンは藤川さんの顔を思い浮べたらしく、ころころ笑った。
「まあ、連絡してみてよ。生徒さんが増えたら、きっと喜ぶから」
キッチンから藤川兄が顔を出す。声も顔も体格もそっくりだけど、やっぱり違う。
だって、どきどき……せんもん。
「わかりました。ありがとうございます」
できるだけ普通に答えたつもりだったけど、少しだけ声が震えてしまった。


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