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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてクミコかく語りき-8

「は〜あ……。どうしよう」
ベッドに寝転がりながら、ジュンからもらった名刺をかれこれ5分ばかり眺めていた。切り取られた空に浮かぶお日さまは傾きかけ、部屋の中がだいだい色に包まれていく。
この電話番号にかけたら、楽になれるかしら。このアドレスにメールを送ってしまえば、解放されるかしら。
『ピリリリリ!』
けたたましい呼び出し音に身体が跳ね上がった。ディスプレイには「ジュン」の文字。
それを見て、かすかにがっかりしている自分に驚きながら電話を取った。
『もしもし、クミコ?どうだ、足は』
受話器を通して聞こえる彼女の声は、くぐもっていてなんだか色っぽかった。
「うん、大丈夫。ありがと」
『そうか、よかった』
あまり電話をしないジュンだから、こうやって話すのもなんだか変な感じだ。受話器の向こうも、そうらしく落ち着かない気配がする。
あたしはまた彼の名刺に目を落とした。
『あのさ、クミコ』
「ん?」
『藤川オトートのこと、なンだけどさ』
名刺を握る指先が白くなる。
相づちをうったつもりだったが、声になっていなかった。
『珈琲も、教えてくれるってサ』
それが昼間の質問の答えだとわかるのに少し時間がかかった。
「聞いてくれたん?ありがと」
『ン。あとはオトートと直接話してくれぃ』
「はーい」
そう言うと、ジュンはさっさと電話を切ってしまった。
鳴り続く電子音を聞きながら、軽い違和感を覚えた。
一体、なんなん?
まるで、あたしにハッパをかけるためにかけてきたみたいやんか。
一瞬、もらった名刺をぐしゃっと潰したくなったが、辛うじて思い止まる。
……ええい、考えても仕方ない。
どーにでもなれっ!
『プルルルルル……』
無機質な呼び出し音が聞こえる。回数をおう毎に、ダイヤルしたことを後悔しだす。
やっぱり切ろうか。いや、あと1回だけ……。
『はい』
あ。
「あのっ……、茅野です。茅野久美子です」
『茅野ちゃん』
機械を通しての声は感情が読めなくて、とても不安になってしまう。
今、どんな顔をしよんじゃろ。
「急にごめんなさい。いま、お話しても大丈夫ですか?」
『ああ、大丈夫だよ』
言葉の終わりに溜め息が交じる。熱でもあるのだろうか。
「えっと、昨日はごめんなさい。それと、これからおいしい珈琲のいれ方を教えてほしくて」
『今から?』
茅野久美子、文学部所属というものがなんたる不覚!
なんて日本語って紛らわしいん!
返事にあたふたとしていると、ふふと笑う声が聞こえた。
『わかった。それじゃ、お互いに身体が治ってからだね。また連絡するよ』
「はい、お願いします!」
携帯電話を丁寧に折りたたみ、細く長い息を吐いた。怪我のことも忘れて、つい正座をしてしまっていたことを思い出し、ゆっくりと足を直す。
「うわーあぁぁぁ」
胸の奥に詰まっていた息を一緒吐き出した。
足のズキズキよりも、胸のドキドキが勝っている。
すでに部屋中は濃紺一色だったが、私の心中はカラフルでうきうきする。
これって、もしかしたら、「らぶ」かもしれん!


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