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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてクミコかく語りき-5

「ああ、まだ痛むみたいだね」
へ?
「茅野ちゃん。昨日、田んぼに落ちたんだよ。水が入ってなかったから、もろに足くじいたんだろ」
へー。
「覚えてない?」
はい。
「しょうがないか、べろんべろんだったもんな」
ええ。
「ちょっと失礼」
えっ。
呆気にとられたままのあたしをよそに、彼は布団をぺらりとめくって腫れた足首の湿布を手際よく貼り替えてくれた。
「今日一番に病院へ行きなよ」
返事すらできずにカクカク首を振るあたしを見て、藤川さんが苦笑した。
「僕は台所で寝てたし。大丈夫だよ」
いや。あの。
そうじゃなくて……。
あたしが口を閉じたままなので、藤川さんは目を伏せた。
あー!もう、どうしよう!?とりあえず何か言って場をつなげなきゃ……!
「はい。ど、どうも色々とお世話に……」
だけど、自分でもびっくりするくらい動揺してしまっていて、言葉がうまくつむげない。初めは笑って聞いていた藤川さんも、あたしの落ち着かない様子を見て口元を強ばらせてしまった。
「ああ……ごめんね。鍵を開けっ放しの方が危ないと思ったから」
彼にそんな顔をさせたことに、なぜか罪悪感を覚えてしまう。
「あ、違うんです。ごめんなさい……」
バカ久美子!このままじゃあ、藤川さんを疑いよるみたいじゃんか!
どうしたらええんじゃろ……?
頭が全然まわらない。気の利いた言葉が見つからない。
「すみ、ません」
結局、口をついて出たのは一言だけだった。
「おれこそ、ごめんね」
重たああい、沈黙。ベッドのそばの時計がカチリと動いた。
「病院、行きます……」
「うん。お大事に」
すっくと立ってから、藤川さんはもう一度「ごめんね」と言った。あたしはこくんと頷くことしかできなかった。
静かに閉まるドアの音を背中で聞きながら、グラグラと怒りがこみあげてくる。
なんなん、あたし!!?こんなん、あたしじゃない!!
「あぎゃーー!!」
枕に向かって叫んだら、頭にガンガン響いた。



ピンポン
「……?」
いやに軽快なドアベルの音で目が覚めた。どうやらあたしは、あのまま二度寝をしていたらしい。二日酔いも大分おさまっていた。
ピンポン
「はぁい……」
誰よー。
のそのそと起き上がり、左足をかばいながらなんとかドアまでたどり着いた。しわくちゃのスーツ姿のまま、扉を開く。
「茅野さん」
「はいっ?」
た、滝田くん。どうしてここに。
ぱくぱく口を動かすだけのあたしを見て、彼はくすくす笑った。
「ジュンから連絡があって。『クミコがケガしたらしいから、ビョーイン連れてってくれ!』って、大命を授かりました」
「ジュンが……?」
あたしが不思議そうな顔をすると、滝田君も首をかしげた。
「あれ?茅野さんがジュンに知らせたんだと思ってましたが……」
「あたしは何も」
言い掛けてから、彼の銀縁眼鏡に映る自分が凄まじい形相であることに気づく。


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