仮装情事。〜鉄の女と人気レイヤー〜-1
「…別れるって…どういう事だよ…」
脱ぎ散らかした服を着直す私の背中に、丸裸になった『彼氏と思っていた男』が問いかける。
この状況…果たして何度目になるだろうか。
「どうもこうもない。どうやら君と私では人並みのセックスができないようだから、別れると言っている」
そしてこの台詞…何度言っただろうか。
「セックスって……お前、そんな理由だけで別れられるのかよ…」
そう呟く男の声は、驚いているのか悲しんでいるのかよくわからない。まあ、そんな所にはさして興味はない。どうせ、彼とは別れるのだから。
そのために私は、思い切り尖らせて冷たくした言葉を投げつけてやる。
「男は性欲が強いと聞いた。だから、それを満たせない私といては、そのうち風俗なりセフレなりで解消するようになるだろう。そして、私はそういうのは嫌いだ。ならば不快になる前に別れる…そういう事だ」
そして身仕度を整えた私は、さっさと荷物をまとめて立ち上がる。すると、男が私の肩を掴んだ。
「…待てよっ」
だがそんな事を言われても、待つ理由などない。私はどんな脳天気にも冷たく見えるような目で男を一瞥し、彼の手を邪魔そうに振り払った。
「巡り合わせが悪かったんだ。諦めて忘れろ」
その場を後にした私は、そのまま人気の多い駅へ向かう。中に入ったら、夜食におにぎりを数個と、ちょっとしたデザートにアップルパイを購入。それらを同じビニール袋に入れて、電車を待つ列の後ろに並ぶ。
そして、周りを確認してから、私は鞄から携帯を取り出した。アドレス帳を呼び出し、その中から一つの電話番号を選ぶ。
コール。
聞きながら、二、三回咳払い。
『…もしもし?急にどうかしましたか?』
繋がった。
「夜分にすいません。参加できないと言っていた年末のイベントについて連絡があって、お電話したんですけど…」
私は二条 京香(にじょう きょうか)。
人に言わせてみれば、
容姿端麗。
頭脳明晰。
難攻不落。
人付き合いはいいが男女交際は長続きしない。しかも、大抵は私がふる方。更に、ふった男は数知れず。そのせいか、「鉄の女」などというあだ名をもらっている。
私としては、「鉄の女」より「鋼の処女」の方が語呂的にいいと思ってるし、好きな曲のタイトルにも似ているから、そっちにすべきだと思う。…まあ、どうでもいい事だな。
とにかく、私は男女交際に関して「付き合いが短い」女だ。
同時に、男女交際に関して「ワンパターン」でもある。
相手の方から告白され、若干気に入っていた相手なら付き合い、最初は清い交際。
だが肉体的なものに発展しようとした時に、私の方から別れを告げる。
しかも、その理由は決まって「自分では性的欲求を満たす事ができないから、不快になる前に別れる」。
後ろ髪を引かれないわけではない。しかし、それ以上に私は嫉妬深いらしく、交際相手が他の誰かと肌を合わせる事に我慢ができない。その事は、前に一度やってよく自覚している。
だから、その理由だけは言って、別れる。
ちなみに、ふったら男女関係は終わり。合コンで知り合った男なら着信拒否にしてメルアドを変えるし、会社の同僚なら付き合う前の態度に戻る。それだけ。
そうやって、そんな事を何度も繰り返してきた。