ジャム・ジャム・ジャム-3
「信頼出来る情報屋さんからなので」
いまいち信じていない様子でふうん、と鼻を鳴らし、エイジは紙切れを懐にしまった。
「ま、最近全然情報が入って来ないからな。ありがたく頂いておくよ」
その言葉にウエイトレスも安堵した様子で、笑みを浮かべる。
「トレジャーハントして帰って来たら、すぐにまた寄って下さいね」
おごりますから、と言って再びぺこりと頭を下げ、ウエイトレスはキッチンへ入って行った。
そんな彼女と入れ替わりで、ダナが両の手にプレートを載せて戻って来た。
「あら、新しいコーヒー来たのね」
ダナはプレートのひとつをエイジの前に置いて、エイジと相向かいの椅子に腰掛けた。
両のプレートに載っているのは、それぞれ分厚いトーストが二枚と厚切りの人工ベーコン、スクランブルエッグ。
このプレート一枚で500G。量の多さを考えるとその値段はずっと安い。
「もっと美味いもんが食いてーな」
エイジはそんなことをぶつぶつ言いながらトーストにバターを塗る。
「ワンコインのプレートなンて、質より量よ。それに、此処のは結構美味しいじゃない」
「そりゃ、フリーズドライやペーストよか随分マシだけど」
食べ飽きたんだよ、とエイジ。
「お金が入ったらステーキでも食べましょ」
当てはないけど、と肩を竦めてダナは言うと、サービスカウンターから持って来たらしいジャムをエイジにすすめた。
「ジャムはいかが?」
「いらん」
即答するエイジに、ダナは思わず鼻白む。
そして自分はトーストにバターとジャムとを塗りながら言った。
「ジャムはサービスなンだから、遠慮せずに食べたらいいのに」
「お前そのジャム食ったことねえの? くそ不味いんだぜ」
トーストにたっぷりとジャムを塗りつけるダナとそのトーストとを交互に見やり、エイジは顔を顰める。
しかしそんな彼の言葉など気にした様子もなく、ダナはトーストに齧りつく。
「あら、アタシは好きよ。このクドい甘さが何とも」
「甘すぎなけりゃ、食うんだけどな」
ダナのおかげで元の量の四分の一ほど減ってしまったジャムの瓶を手に、エイジはぽつりと呟く。
『フルーツ・ミックス』とポップな書体で書かれたラベルを眺め、試しに一口だけ中身を舐めてみる。
「うえ、やっぱダメだ」
エイジはその妙な甘さに顔を顰めた。
バナナとイチゴとアンズを一度に鍋に入れ、砂糖を入れるだけ入れて煮詰めるだけ煮詰めたような、そんな味。
瓶を置き、口直しにコーヒーを啜る。
「お前、よくこんなの食えるな」
若干皮肉めいた口調でエイジが言うと、ダナは満面の笑みを浮かべる。
「あらァ、昔から好き嫌いなンてないのよ」
「さいですか……」
皮肉の通じない奴だ、と口の中だけで呟き、エイジは気を取り直して厚切りベーコンに取り掛かった。
フォークで突き刺したベーコンをそのまま口へ運び、噛み千切る。
「……」
エイジは口をもぐもぐさせながら、何か言いたげにダナを見やった。
彼はというと、せっせとベーコンを一口大に切り分けながら丁寧に口へ運んでいる。
かちゃん、とエイジはフォークを置いて、嘆息を漏らした。