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ジャム・ジャム・ジャム
【SF その他小説】

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ジャム・ジャム・ジャム-4

「金、金、金! 金がなけりゃ物も食えないし酒も飲めないし、女も抱けねえ! あああ、何で俺は貧乏人に生まれちまったんだろう」
「自分の出生を嘆いたって無駄よ。努力して稼ぎなさいな」
早くもプレートを片付けてしまったダナが、口元をナプキンで拭きながら言って肩を竦めた。
「他人事みたいに言ってくれるぜ」
けッ、とエイジは毒づく。
エイジとダナは同じトレジャーハンター・チームだ。
エイジに収入がないということはダナにも収入がないということなのだが、彼にこんな余裕があるのは、今までに獲得した金をきっちりと貯金しているからだ。
入った先から金を使って行くエイジとは正反対である。
「でも稼ぐったって」
デザート代わりなのか、ジャムをスプーンで口に運びながらぼやくダナ。
「最近の情報の少なさじゃねェ……」
言いながらあの甘ったるいジャムをそのまま食べる。それを顔を顰めて見ていたエイジであったが、「情報」という彼の言葉に反応した。
思い立ったように、ウエイトレスから貰ったあの紙切れを取り出す。

「何、それ?」
「溺れる者は藁をも掴む――困窮する者紙切れ掴むってか」
「?」
エイジは周りを気にするようにごく小さな声で言った。
「不確かだが、トレジャーの情報をさっき仕入れたんだ」
「情報を?」
「さっきのウエイトレスの子から、せめてもの詫びだと」
見せて、とダナはエイジの手から紙切れを奪う。
ウエイトレスの心配り、というよりはこのような紙を用いての情報の受け渡しに、他人に情報を読まれぬようプロテクトをかけるのは基本だ。
だから当然、この紙切れには何も書かれていない。
ダナはテーブルに置いてあるサービスのマッチを擦り、炎を紙切れに近付ける。
次第に紙切れには、不可視インクで書かれた数字が浮かび上がって来た。
神妙な面持ちで、ダナはコーヒー片手にその紙切れを見つめる。
「この座標だと――『マヌゥ・シーチ』ね」
言ってくしゃりと紙切れを握り潰し、ダナはやはり神妙な面持ち――もっとも、どう見てもその表情は怒っているようにしか見えないのだが――でエイジを見つめた。
「あの気味悪いところか」
眉根を寄せ、エイジは言う。

惑星マヌゥ・シーチ。
湿度の高い、表面の殆どが沼と湿地で覆われている惑星だ。
四六時中厚い雲で覆われた鉛色の空。エイジの言うとおり、薄暗い湿った空気も手伝って、マヌゥ・シーチは不気味な雰囲気を湛えていた。
しかし、多くの調査船や軍艦などが激しい嵐や雷などによってこの惑星に沈んでおり、その廃船はトレジャーハンター達にとって格好の得物であった。
もっとも現在では惑星に沈む船の殆どがハンター達に食い荒らされてしまっている。
「そうねェ、確かにマヌゥ・シーチにある船も遺跡も、目ぼしい財宝が眠っているとは思えないし……」
残り少なになったジャムの瓶を置いて、ダナは息をつく。
そんなダナがふと顔を上げてエイジを見やると、彼はにやけた面でダナの握り潰した紙切れを見つめていた。
「? どうしたの、エイジ?」
「ん? ああ、いや……期待は出来ないだろうけど」
言いながら、ちらりとエイジは先程のウエイトレスを見やる。
「折角彼女がくれたもんだからってな」
その言葉に、くすりとダナが笑う。
「いいンじゃない? 今は仕事も情報も選り好みしてられないンだし、当たれば儲け程度に考えて行ってみましょうよ」
ダナがその凶悪な面に笑みを刻んで頷いたのを見て、エイジも口の端に笑みを浮かべた。
「そうだな。このプレートを片付けたら、行ってみるか」
言って、プレートに残ったベーコンとスクランブルエッグに再び取り掛かる。
スクランブルエッグを掻っ込むエイジを見て、ダナは笑みを浮かべたまま、残りのジャムを彼にすすめた。
「ジャムは?」
「いらん」


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