相互理解=不可欠?-2
「そぉ?そんな事ないと思うけど」
「いや、あるんだ。何故なら……」
「何故なら?」
私の話術にタマがゴクリと喉を鳴らした。
私はここぞばかりに拳を握り締め、ベンチから立って高らかに言った。
「もう一週間も一つ屋根の下で暮らしているというのに、夜這いはおろか入浴中の私を覗きにも来ないのだからっ!!」
と、同時に後ろで何かがひっくり返る音が響いた。振り返るとタマがひっくり返っていた。霰もない姿を晒して。
「タマ。君も女性なのだから恥じらいと言うものを……」
「それ、一言一句変えずにルリに返すっ」
起き上がったタマはどこか赤面した様な様子だった。
「……何故?」
「今さっきルリってば、大和撫子だから貞淑にしてるとかなんとか言わなかった!?」
……………。
「私は過去には拘らない主義だ」
「をいっ!!」
「だいたい、私は彼の妻なのだから夜伽をするのは私の役目だろう?」
「伽……?」と、タマは首を傾げながら、しばらく考え……約十秒でタマの顔面温度が跳ね上がった。
「な、なっなな何を」
「何を動揺しているんだ。当然の事を言っただけだぞ」
彼と夜を共にするのは私だけ。彼の子を産むのも私だけだ。
そう告げると、タマの顔がさらに赤くなった。
「と、ともかく」
ゴホンッ、と咳払いしたタマが興味津々顔で聞いてくる。
「一つ屋根の下って、どういう事っ!?それって同棲!?」
うむ、と頷くとタマは「キャーッ」と嬉しそうに悶えた。
……なぜ嬉しそうなのだろう?
「それでそれで?何で同棲する事になったの!?」
そう聞かれれば、答えるのにやぶさかではない。そう、あれは一週間前……。
「どーゆー事だ、こりゃあ!?」
辰也が私を挟んで立っているご両親に向かって指を突きつけた。何やらやけに憤慨しているようだ。
「辰也、ご両親に指を指してはいけない」
「そうよ、辰也」
「俺はそんな風に育てた覚えはないぞ!」
初登場の義父さんがこれまた憤慨している。
「なに、瑠璃ちゃんがここで暮らすのが、そんなに嫌なの!?」
「娘が欲しかったという、両親の夢をお前はぶち壊すのか。それでも息子かお前はっ!?」
「いやむしろ、息子の俺に相談もなしで決めるなんてそれでも親かっ!?」
舌戦が繰り広げる三人。これは止めねばなるまい。親子喧嘩はなんとやら。
「辰也。義父さんも義母さんも落ち着いて。お茶でもいかがですか」
「あら、良いわね。ちょうどこの前、ダージリンを買ったのよ」
義母さんがいち早く話にのってくれた。
「では、私が淹れてもよろしいですか」
「おぉ、瑠璃ちゃんの淹れる紅茶。是非飲みたい!」
義父さんものった。
「辰也は?」
「…………飲む」
よし、ではとびきりの紅茶を淹れよう。