君のそばにいてあげる(二日目)-2
母さんが玄関に行って暫く時間を置いてリビングに戻ってきたら遥奈も一緒だった。
しかも、俺の姿を見るなり母さんと一緒にはしゃいでやがる。
「ねーねー、ゆーくん。また一層可愛くなっちゃったね」
「でしょでしょ! 遥奈ちゃんもそう思うでしょ。もういっそのこと祐ちゃんにはこのままでいてもらおうかしらねえ」
「やめてくれよ! 冗談でもそれはないよっ」
朝食を食べ終わった俺は母さん達に抗議をする。
そんな俺の剣幕をニコニコと見ていた遥奈はいきなり俺の手を掴むとリビングを出ようとする。
「ちょっと待て。一体なんのつもりだよ。遥奈」
「んー、だって、ゆーくんパジャマのままだよ。お着替えしなくちゃね」
待て!
マジで待てっ!?
なんでお前が俺の着替えをするんだ!!
遥奈の言葉に慌てた俺は彼女の手を振りほどこうとしたが、如何せん今の俺には遥奈に勝てる力もなかった……。
「ほぉら、ゆーくん。暴れちゃめーだよっ」
そう言いながら遥奈は俺の部屋まで引き摺るように俺を連れていく。
その後は大変だった。
遥奈に無理矢理パジャマを脱がされパンツ一丁にされたあげく、耳や尻尾をじろじろ観察されから一人で着れる制服を着せられる恥辱を朝から味わう羽目になった。
女の子に力負けする俺って一体……。
こんな事があって力なく歩く俺に遥奈は「おんぶしてあげようか?」などとふざけた事をぬかしながら俺の前に屈んだので、流石に頭にきた俺は軽く遥奈の背中に蹴りを入れた。
「いったーい! ゆーくん乱暴だよぉ」
「やかましいっ!! お前は一体どこまで俺を幼児扱いする気だっ!」
遥奈の俺に対する扱いにキレた俺は玄関で怒鳴ったのだが、その直後に突然背後からげんこつをされた。
「祐ちゃん! 女の子に乱暴しちゃだめでしょ! いきなり押し倒しちゃだめって母さんいつも教えてるじゃない」
俺の前で倒れている遥奈を見て何を思ったのか、母さんは朝からとんでもない事を言い出した。
「いーんですよ、叔母さん。あたし、ゆーくんが望むならどこでも大丈夫ですから。ほら、一番肝心なのは相手ですから」
倒れたままの遥奈が頬を染め笑いながら言うと、母さんもそのノリに便乗しだした。
「あら、確かに誰とするかってのも大事だけど、ムードも大事なのよ。遥奈ちゃん」
朝の玄関先でナニをするってんだよ。
てか、朝の会話のネタじゃねーだろ……。
まあ確かに遥奈は頭の中身はアレだけど、見た目は確かに可愛い女の子なんだよな。
そんな考えが一瞬、頭の片隅を過ったがそんな煩悩を振り払うと俺はバカ話を続ける二人を余所に靴を履き外に出ようとした。
「あーっ! 待ってよ、ゆーくん。叔母さん、いってきまーす」
俺がさっさと玄関から出ると、慌てて立ち上がった遥奈が俺の後を追い掛けるように玄関を飛び出した。
「ったく、朝っぱらから何を考えてるんだよお前は……」
溜息を吐きながら歩く俺の横で遥奈はやたらにこにこしながらご機嫌そうに鼻歌などを歌っている。
「ねえねえ、ゆーくん。その帽子取らない? せっかく可愛いお耳が付いたんだから隠しちゃうなんて勿体ないよ」
「ごめんだね。こんな耳や尻尾を晒したまま学校に行けるか」
そう、今の俺は頭にニットキャップを被り、尻尾は無理矢理ズボンの中に押し込んで極力目立たないようにしていた。