「とある日の霊能者その3」-1
……どうしたの?そんなに落ち込んで、涼香ちゃんらしくもない……
秋らしい夕暮れ道、ボクはボクらしくない。オバサンの霊が話しかけているのに、ボクはまともに受け答え出来ていない。
初めて惚れた。つまり初恋。
相手は仲里君。一目惚れというやつだ。
どうすればいいのか分からない。この気持ちをどうすればいいのか。だってボク、告白する勇気もない。
……涼香ちゃん?一体、どうしたっていうの?オバサンで良ければ相談に乗るわよ?……
オバサンは優しくボクに話しかけてくれる。
なんでも、このオバサンは旦那が逝去してから自分の娘に辛い想いしかさせてこなかったらしい。今までの働き手である旦那がいなくなって、自分は働きに出なければいけなくなった。娘は小学生で(このオバサンは晩婚らしい)、親の温もりを欲していたのに、自分は働き疲れてその温もりを与えることが出来なかった。言い訳にしかならないけどね、とオバサンは自嘲していた。
そうこうしている内に、オバサンも過労で逝去。今、娘は中学生になって、施設で暮らしているらしい。毎日様子は見に行くそうだ。どこか元気はないらしいけど。
「あのね……ボク、恋、しちゃったみたいなんだ……」
……へぇ、やるじゃない!……
なにがやるのか分からないけど、オバサンは真剣に聞いてくれるようだ。
「その人は普通の人なの。つまりその……ルックスがね。そんな人に、ボクは恋したんだ……」
……若いっていいわねぇ。オバサンも初恋とかあったわ〜……
「それでね……ボク、どうしたらいいか分からないんだ……」
頬が真っ赤って、自分でも分かる。仲里君のことを考えるだけで、こんなにも胸が高鳴る。
……どうしたらって、告白すればいいじゃない……
またこのオバサンは実行しづらいことを言い出す。それが出来ないからこうして相談してるっつーの。
「出来るわけないよ……」
……なんで?涼香ちゃん、結構イケてるわよ?……
オバサンに比べればね、という言葉は飲み込む。
「だって……なんか怖いし……」
……フラれるのが?……
図星。
「……皆、そうじゃないの?告白する勇気がない人ってさ」
自分に言い訳をするように、ボクは言った。
くだらない、と思うだろう、恋をしていない人にとっては。この気持ちは、恋をしている者にしか分からない。だから、オバサンには分からない。
……そうね。きっとそうだと思う。オバサンもそうだったから、分かるわ……
「オバサンも?」
恋を成就させることが怖かった、ということだろうか。
……うん。オバサンね、初恋の人と一緒になったの。それがオバサンの旦那。長かったのよ、オバサンたちのゴールインまでは。なんせ、オバサンも旦那も、お互い両想いだって気付かなかったし。だから、怖かった。好きなのに、フラれるのが怖かった。やっと告白したのが、このオバサン年齢になった時だったわ。まあ、それでも幸せだったわ……
今はこんなだけどね、オバサンは辛そうに言った。
「…………」
幸せ、だったんだ。少なくとも、主人が亡くなるまでは。幸せは永遠に続くわけじゃない。このオバサンを見てると、そんな言葉が浮かび上がってきた。
好きな人がいる。 それだけじゃ駄目なんだ。好きな人がいるなら、恋をしているなら、成就させるんだ。そうしなきゃ、幸せなんて手に入らない。
ボクは気合いをいれた。これから告白するぞ、そんな気合いを入れたんだ。
「よしっ!」
「……なにやってんだ?」
その後方から、怪訝そうな声が聞こえるまでは。