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「とある日の霊能者その」
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「とある日の霊能者その3」-2

「ひゃっ!」
思わず変な声が出ちゃう。
うん。それはきっと、
「よう、水上……だっけ?」
その声の主が、仲里君だったから。
「う、うううん!そだよ!ありがとう!覚えててくれて!」
狼狽えまくりの震えた声を発した。それだけならまだしも、
「う、わっ!」
すってん!と漫画のようにバナナの皮を踏んで滑り、ちょうど仲里君に見えるか見えないかのギリギリの姿勢で尻餅をついてるんだから、ボクってドジだ。ちなみになにが見えるか見えないかって言うと、女の子の三角形な布。それだけ説明すれば分かるでしょ。
……大丈夫?涼香ちゃん……
「おいおい、大丈夫かよ?」
二人が同時にボクに近寄る。まずどちらに声をかけるべきか、ボクは悩んだ。そして、馬鹿だと思った。
仲里君に変なモノが(要は霊)見える人だなんて思われたくない。だからこの場合、優先すべきは仲里君だ。
「う、うん。……ありがとう」
仲里君は手を差し伸ばしてくれていた。ボクはお礼を言ってその手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
それから気付いた。仲里君は微妙に不審気な顔をしている。
こいつ、まさか。視線がそう語っていた。
「え……と」
いつまで握っているつもりなのだろう。仲里君はボクの手を放さない。 だから声をかけたんだけど、

「……お前、見えんのか?」

そう言われた。
ボクは激しく動揺した。仕方ないと思う、初めてこんなことを言われたんだから。
見えんのか。この言葉は、まさかとは思うけど……幽霊が見えるのか、ということだろうか。
「……なあ、見えんのかって」
仲里君はボクに訊き直す。
なんて返答すればいいんだろう。素直に言えばいいのだろうか。仲里君になら、言ってもいいのだろうか。
「……見えるんだな?」
まだなにも言ってないのに、仲里君は表情から読み取ったらしい。顔から力を抜き、握りっぱなしだったボクの手を放した。
「そうか、見えるのか……」
もう間違いない。
仲里君は、ボクが見える人だって気付いてる。
でも、ボクは、
「な、なに言ってんの?仲里君の言ってること、さっぱり分からないよ」
認められない。
認めたくない。
だってボクは、見える人でいて得したことなんかないから。
きっと、仲里君だって同じだ。
今までの人と、ボクを気味悪がった人と、同じだ。
「……認めたくない気持ちは分かる。けどよ、もうバレてんだぜ?」
まるでボクが追い詰められてるみたいだ。なんにも悪いことしてないのに。いや、それ以前に、
なにが分かるっていうんだ?
「なに……それ」
所詮見えない一般人のあんたに、なにが分かる?
「意味分かんない!」
なにも見えずに幸せなあんたに、なにが分かるっていうんだ!?
「ボクのこと、なんにも分かってないくせに!知ったような口利かないでよ!あんたにボクのなにが分かるっていうの!?分からないでしょ!?だったらほっといてよ!ボクは、一人でいいんだよ!」
「……ふざけんな」
ぱんっ。
突然のことだった。
しばらくボクは呆けていた。
左頬から熱を感じる。
じんじんと、痛みも。
ボクは、仲里君にぶたれた。
「一人でいいだと?ふざけんなよ!人は一人じゃ生きていけねえ生き物なんだ!それに、人は一人じゃないんだ!必ず誰かがいるんだよ!」
「……うっ」
その頬を伝うのは、なぜか涙。きっと仲里君の弾かれたような説教まがいの早口叫びのせいだ。
いや、違う。
きっと、そうだ。


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