Dawn-9
「…なんだよ。」
頭を振って女が言う。
「それはただの錆びた棒だ、人間。」
「はぁ!?」
片目だからって、この輝きが見えないはずは無いだろ…?今度は大和がまじまじと女を見返す。
「ちょっと待てよ、ほら!」
大和は、手近にあった木の枝をすっぱりと切ってみせる。
「な?お前に使えないはず無いだろ?」
そして、また2,3の枝を切って落として見せた。イナサは目を凝らしてそれをみていたが、やがてゆっくりと首を振った。
「ならば、その刀が私を選ばなかったのだろう…神器は扱う者を選ぶという…私にはどう見てもただの棒切れだ。」
そして、祠にふと目を向けた。そこには落胆のような、いや、落胆することさえ諦めた、妙な潔さが漂っていた。
「まぁ、お前が私に危害を加える気がないことは解った…。」
そう言って、大和の裂けたジーンズから流れる血に目を留めた。何もいわずにつかつかと彼に近づくと、その足元にしゃがんで何やら手をかざした。
「な、何だよ。」
女は答えずに、ジーンズの下の傷跡に、吹き込むように歌を歌った。それは、人間の耳にはとても奇妙に思える旋律で、歌詞にいたっては、何語かもわからないような言葉だった。けれど、不思議と心休まる音楽に、大和は我知らず目を閉じた。温かいものが傷口から身体の中に入り込んでくる。
―こいつ…本当に人間じゃないんだ。
ようやく心の中の違和感と頭の中での理屈が一致したとき、歌が終わった。
「これで歩けるだろう。」
ジーンズの下の傷口が、見事にふさがっていた。
「…すげぇ…一体なにを」
「―無理をすればまた開く。これは乗車賃だと思ってくれ。ではな。」
そう言って、女は大和に背を向けて、広場の方に向かっていった。
「お、おい!武器もなしに突っ込んじゃあぶねぇって!」
女は振り返った。
月光を纏った鉄の髪と白い肌は、その時彼の視界にあったどんなものより輝いて見えて…
「早く行け、人間。奴が私を喰らうところは、見ていて楽しいものではなかろう。」
そして、笑った。