私の涙、いくらですか?2-1
授業前の教室の雰囲気はいつも落ち着かないから、私は嫌い。
たくさんの人が出入りし、気が向くままに色々な言葉が飛び交っている。
だけど、今日の私は悪くない気分だ。
「これ、いいわね。」
「でしょ、でしょ〜?」
最高に割のいいバイトを皐月が教えてくれた。
私は渡されたアルバイト情報誌の開かれたページを食い入るように見つめ、そこに付箋をつける。
『清掃員を募集しています。
条件:住み込みで働ける方。
時間:10:00~翌4:00の中で6~8時間。時間帯応相談。
自給:1000円… 』
「住み込みなら部屋を引き払って、家賃も払わなくて済む。それに、この辺の高校生アルバイトの自給としては1000円というのも悪くないわ。」
「でしょ〜?これ美菜に見せたくて!」
「でも…」
「でも?」
「話が上手すぎて怪しくない?」
疑い始める私を、皐月はきょとんとして見た。
そんな穢れの無い目で見るんじゃないわよ…。
疑うことから始めるのが世渡りのコツなんだから。覚えておきなさい。
「う〜ん…じゃ、念のため偽名で行けばいいんじゃないかなぁ?」
「はぁ!!?」
突拍子も無い発言に素っ頓狂な声を出してしまった。この子は何を言い出すの!!?
「そんなことしたってすぐにバレるじゃない!!」
「だいじょ〜ぶ!どうせ、履歴書の内容確かめたりなんてしないよっ。そんなもんだってお兄ちゃんが前言ってたし!!」
めまいがした。
そんなところで兄を出してくるとは…。
急に信じてもいい気分になってきてしまうじゃない。
皐月の兄は木田修一。
会った事は無いが、私がついつい気になってしまう人物だ。
でも恋だと思いたくはない。
「それに自給のことも住み込みのことも、行けば分かるって〜!」
「…ったく。まぁ、いいわ。せっかく教えてくれたバイトだし、お金もないから、面接くらい行ってみるわよ。」
皐月の携帯を借りて、その場で面接のアポを取る。
なんか、彼女には逆らえない。
でも、私のためにバイトを探してくれていた気持ちが何より嬉しかった。