私の涙、いくらですか?-2
「そだねー、気をつける!!美菜も心配してることだし!」
「心配なんてしてないわ。別に。」
気持ちのいいくらいにニッと歯を出して笑う皐月をよそに私はそっぽ向いた。
ほんと調子の狂う子…。
普通なら私みたいな素直じゃない人と一緒にいたくないだろうに、この子はどこまでもついてきそうなのよね。
だけどほっとけないのよ。
彼女が明るく振舞えば振舞うほど、どこかで無理をしているのではと変に勘繰ってしまう。
これは、高校に入って皐月と出会ってからの1年間に培われた癖みたいなものだ。
「とにかく、走るのだけはやめて。」
私の苦々しい表情を見て、皐月が嬉しそうに微笑む。
これが、私たちの1日の始まり。
ズバズバと言いたいことを言ってしまう性格で、しかも学校の裕福な子達の話題にはついていけず、入学当初から完全に孤立した私に、進んで話しかけてきたのが木田皐月。
「リスクを冒してまで本音を言おうとする美菜が好きだなぁ!」
と、いつも彼女は私を肯定してくれる。
自分が一番大きな悩みを持っているにも関わらず、人の心配ばかりをして、受け入れる。
そういう彼女を私も尊敬し、信頼している。
だからこそ、私の最大の恐怖は皐月を失うことなの。
彼女は体が弱い。
幾度と無く入退院を繰り返し、毎日処方された薬を飲み続けている。
皐月は私に心配かけまいと、病状などについては一切話そうとはしないが、見たところ、呼吸器系の病気のようだ。それも一向に良くならない。
青白い肌を隠すように塗られた濃い色のファンデーション、ピンク色のチーク。
明るく話すその表情。
いつも胸が締め付けられるような錯覚を覚える。
だけど、彼女は気を遣われるのが何より嫌なのだと思う。
それなら…彼女の努力に付き合ってあげるのが、私の努力。
「昨日はやっとお兄ちゃんが帰ってきてくれたの!今日の朝もほら、お弁当作ってくれて!」
「ふーん…」
教室の席をくっつけて向かい合いながら、お弁当を広げる。
私のお弁当は米に梅干しが乗った、所謂、日の丸弁当。
しかも、梅干しは半分だけ。もう半分は明日の分よ。
女子高生が日の丸弁当かよって言った奴は出てきなさい。私が相手になってあげるわ。
皐月のは…豪華なお弁当ね。
ぱくっ。
私は皐月のお弁当に入っている卵焼きを奪って、頬張った。
出汁巻き卵。ほんのり甘くて昆布出汁がきいている。とてもジューシーな卵焼き。