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私の涙、いくらですか?
【純愛 恋愛小説】

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私の涙、いくらですか?-3

「あ!美菜また卵取った!!」
「防御が甘いのよ。本当にお兄さんの卵焼きはおいしいわ。滅多に食べられないのが残念ね。」
「もう!!でも…その褒め言葉に免じて許してあげるけど…」

皐月は膨れっ面をしたかと思うとすぐに、にんまりと私に微笑んだ。
私は彼女を、まるで眩しいものであるかのように目を細めて見る。

キラキラと輝いている彼女。
たくさんの問題を抱えながらも、楽しそう。
皐月のこの明るさにはいつも救われる思いだ。
向かいあいながら、私と同じように頬杖をつこうとする姿が可愛らしい。

「やっぱり…お兄ちゃんに彼女ができるとしたら、美菜がいいなぁ!」
「は?」
「皐月がお兄ちゃん紹介するから!お願い、会ってみて!!」

突拍子もない話を持ちかける皐月の目は爛々と輝き、決して引き下がろうとはしない。

「冗談やめて。お兄さん恋人くらいいるでしょう。」

そう言いながらも自分で発した“恋人”という言葉にズキリと胸が痛んだ。
(なんで私がショック受けてるのよ。バカバカしい。)

しかしその時皐月の笑顔が曇る。
「お兄ちゃんは、恋人なんていないよ。」
「?」
「私が小さい頃から仕事ばっかりしてるし、家には滅多に帰って来ないし、それに…私の病気が治らないうちに自分だけ幸せにはなれないって考えてるもの…。」

私って気が利かないわね。皐月にこんな顔させるなんて…。
無神経な自分を呪った。

「皐月の病気なんてすぐに治るわ。いつまでも治らないようなら、私がヤブ医者をとっちめてあげる。貧乏人を怒らせると…怖いのよ?」

私の言葉に、「ほんとに怖そう!」と言って皐月は大爆笑した。
心の奥底にある不安に気づかないフリをしながら。

皐月のお兄さん。名前は木田修一(きだしゅういち)。
どうやらかなりの大企業に勤めているエリート…らしい。
元々裕福な家庭であったが、皐月達の両親は早くに他界しており、ずっと修一さんが皐月の親代わりだったそうだ。
皐月の病気のこともあるし、精神的にもかなり苦労してきただろうと思う。

料理、スポーツ、勉強、性格、容姿。どれをとっても完璧な男…らしい。

“らしい”というのは聞いた話でしかないからよ。

「私はもう、皐月のお兄さんのことに関しては博士号を取れるわね。会ったこともないのに知りすぎてるもの。」
「そうだよねー!全部、美菜に話し尽くしてるし!!でも見た目だってかなりカッコイイんだよ!!妹の私が言うんだから間違いない!」

そう言いながら彼女はえっへんと胸を張っている。
いいんだか、悪いんだか。

おかげで私は会ったこともない人のことを好きになってしまったんだから。

得意なこと、苦手なもの。
考え方、さり気ない優しさ。

話を聞けば聞くほど、好きになってゆく。
こんなこと、皐月にも絶対言ってたまるかと思うけど。

大体、大企業で働くエリートと、私では不釣合いもいいところだ。
とっとと忘れた方がいいに決まってる。


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