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『碧色の空に唄う事』
【純愛 恋愛小説】

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『碧色の空に唄う事』-7

いささか不快を覚えるクリスマスソングのエンドレスから逃れる為に、私は身支度を整え外に出た。
外はそれなりに寒くてちらほらと雪が舞っていた。
2歳ぐらいの子供が「雪だうま!」と叫んでいて、母親が雪と雪だるまの違いについて真剣に子供に説いているのが見えた。微笑ましくも見えるその様は、逆に鼻で笑いたくなるほど滑稽に思う。母親と不意に眼が合って、私は意味も無くにっこり笑って会釈をした。
なんの気無しにそれをしばらくの間見ていたのだが、なんだか後ろめたくなってはらはらと舞う雪に眼を向ける事にした。
不規則に揺れる雪は、不揃いに綺麗で、不完全な完璧だった。私は、はぁと息を大きく吐き出し、白んだ吐息が空に消えて行くのを見送り、泣いた。
雫がはらりと滑り落ちる様な、そんな涙。
比較的、暖かな涙だった。


* * *

もし二人が離ればなれになったとしたらって事?
ん〜…そうだな…
んっ?
どうかな?いささか寒いとは思うけど?
――京子がそう願うなら、僕もそうなれば良いと思うよ。
うん?…うん。
――やっぱり残酷かな。
でも前程には落胆してはいないよ?
……大丈夫だよ、心配しないで?
うん、そうだよ。
京子はやっぱり、笑ってる方が綺麗だ。
――ふふっ、そうそう。
笑ってるんだよ、京子。
そしたらきっと、きっと。

会いに行くから。


* * *


昔の夢を見ていた。
本当に昔、私がまだ宵と出会ったばかりの頃の事。
右手はきっちりと宵の左手に掴まれて、少し朱色に染まった宵の頬がとても可愛いと思った初デートの日。私と宵はイチョウ並木の通りを歩いている。
宵が隣で歌を唄っているのを聴きながら歩く並木道は、とっても心地が良くて、素敵だった。
私達は、二人の道が分かつ時が来てもきっとまためぐりあう約束をして、笑い合った。
きっと上手くいく事を期待して、約束した。




気付けばさっきの親子はいなくなっていて、鳴り続けていたエンドレスソングも終わっていた。
この辺では珍しく周りが“しん”と静かで、生き物すら居なくなっていた。
私は数瞬の間、ここが夢の中なのでは無いか、と勘違いした程に静かで、のどかで、暖かな空間になっていた。
静止画像みたいに何もかもが止まっていて、雪だけ舞う。ぴんとはりつめた空気を、私の吐く息だけが形作っていく。
まるで異世界。
けれど現実的で、象徴的で、清らかで、確実だ。
私は何度かにわけて深呼吸をし、指の一本一本を見て爪の長さを確認した。そして手で髪の毛をとかし、眼を閉じて瞼をこすった。
何回も何回も揉む様に眼をこすってから、ゆっくりともう一度呼吸をし、瞼を解放した。

宵が、会いに来ていた。


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