10年越しの絆<後編>-6
「落ち着いた?」
宮木さんの涙が少し収まったのを見計らって、俺は静かに口を開いた。
「何が有ったの?……って、本当は俺、知ってるんだよね。宮木さんがどうして泣いてるのか……」
(光輝のことなんか…嫌いになってしまえば良いのに……)
俺の言葉に、宮木さんは肩をビクッと震わせた。
「な…んで……」
「実はさ、俺も見たんだよね。だから宮木さんが考えてること、なんとなく分かる」
宮木さんの表情が、一瞬にして強張る。でも俺は、構わずに言葉を続けた。
「ねぇ、宮木さん……宮木さんが気になってること…教えてあげようか?」
俺が今から言おうとしている言葉…それは確実に、宮木さんを傷付ける。
自分の中にこんなに冷酷なことを考える部分が有るなんて、ある意味驚きだ。
でも…止められない。
「水沢はね、光輝のことが好きなんだよ」
口に出した途端、宮木さんの体が脱力した様に崩れ落ちた。目を見開いたまま、焦点の合わない瞳でジッとどこかを見つめている。
「あの二人はね、以前から…宮木さんが光輝に再会するずっと前から…仲が良かったんだよ。二人はきっと…両想い…なんじゃないかな?」
宮木さんの瞳からは、もう涙は落ちていない。けど、その表情に生気が無い。
本当に俺は、冷酷だ。
目の前で宮木さんが傷付いているのに、俺の一言で光輝と宮木さんの関係が悪化するのを、嬉しいと感じてしまう。
俺のしたことは、許されないかもしれない。
光輝が好きなのは、水沢じゃなくて宮木さんだって…本当のことを教えたら、軽蔑されるかもしれない。
それでも…この想いを、諦められなかった。
窓の外では雷鳴が響いている。
宮木さんにとって、俺の言葉はあの雷と同じだろうか。
貫かれたら最後…一瞬でその身を滅ぼしてしまう……
「あれ?まだ誰か残ってんのか?」
ガラッと教室のドアを開ける音と共に、光輝が顔を覗かせた。
「なんだ、博也か…えっ、聖?」
床に座り込んでいる宮木さんの姿を見た途端、光輝は表情を曇らせた。
「ひ、じり…なんで泣いて……」
誰が見たってすぐ分かる。
宮木さんの頬はまだ、涙に濡れたままでいる。
「光輝君には…関係ないよ」
「博也、まさかお前…」
光輝は、宮木さんへ向けていた視線を俺へと向けた。刺す様に鋭く、俺を睨みつける。
「人聞き悪いなぁ…自分の胸に手を当てて訊いてみたら?光輝“君”?」
「な、にを…聖、博也に何か言われたのか?博也のせいなのか?どうして泣いて……」
「関係ないって、言ってるじゃないっ!ほっといてっ!」
宮木さんはそう叫んだ後、教室から飛び出した。
光輝は氷ついたまま動かない。
その表情はまるで、廊下から光輝と水沢の様子を見ていた先程の宮木さんの様だ。
「あっ、宮木さん、ちょっと待って!じゃぁな、コ・ウ・キ“君”!」
俺はポンポンと光輝の肩を叩いてから、宮木さんの後を追った。