ジャンプ!-7
大将の粋な計らいだ。荒目の和紙に本日のメニューを、筆でしたためてお客に見せる。
先日、電話で頼んだアナゴとシシャモも書いてある。直海は彼女達の顔を見ながら、
「苦手なモノは?」
林はしばらく考えてから、
「ナマコ…かな」
夏川は即答で、
「何でも大丈夫です」
直海は〈じゃあ料理は大将に任すよ〉と注文する]
店員は〈ハイ。分かりました〉と言うと、階段を降りていく。
彼の姿を遠目に追いかけていると、ふと2人の視線を感じた。
「どう?初来店の感想は」
直海はそう言いながら彼女達に向き直り、タバコを取り出して火をつける。
「なんか隠れ家みたいな雰囲気の店ね。貞本さんは良く来るの?」
「ンーッ、ここ半年は来てなかった。だいたい月1回くらいかな?公私入れて……」
直海と林の会話に夏川が割って入る。
「去年は3回〈接待〉に使われたでしょう。だからプライベートで7〜8回は使われたんですね」
「そうかな……」
直海は煙を部屋の外に向かって吐きながら、会話をそこで切ってしまった。
〈失礼します〉と、先程の店員が生ビールを持ってきた。各々がジョッキを手にすると夏川が、
「貞本さん。乾杯しましょう!」
直海はちょっと考えるふりをしてから、
「じゃあ〈2人との再開と初来店〉を祝って」
ジョッキが重なり、直海は一気に半分ほど飲んだ。
〈喉カラカラ〉な2人も同じ位飲んだ。そこから料理が良いテンポで運ばれてくる。
タケノコとワラビの煮物、タラの芽の天ぷら、焼きハマグリ…
そのどれもが作りにひと工夫がなされ、真似出来ない味に仕上がっている。
女性2人はビールそっちのけで料理に没頭している。直海はビールと料理を楽しんでいた。そろそろ酔いが廻りだす頃だ。
「貞本さんは今、何してるんです?」
夏川が沈黙を破る。この場合は、料理に夢中になって無言だったと言うのが正解か。
直海は2杯目のジョッキをテーブルに置いて、
「そうだな、昨日なんかは……」
彼は1日のスケジュールを彼女達に聞かせる。すると、
「へぇ〜!貞本さんが畑仕事や庭木の剪定やるんですか。意外ですね」
「それに野球のコーチもね」
「こーちぃ?」
直海は少し酔ってきたのか饒舌になってきた。