ジャンプ!-19
「さあ!着いた。博多で最高のソバ処だ」
直海は陽気な顔を見せた。しかし、他の3人は違うようで、
「拍子抜けした〜!貞本さんって〈変わった店〉が好きなのね」
〈まあ、そう言わずに〉と、直海は言いながら入口の引き戸を開け、皆を中に導いた。
30畳はゆうに有る土間に卓台が10脚あまり。卓台は客で半分くらいが埋まっている。
「君らはここに座ってくれ」
直海は、山内達に座るべき卓台を指示すると、自分達はちょうど真後ろ、林からは様子が見える位置に座った。
作務衣を着た従業員がソバ茶を持って来る。直海は〈オレに任せろ〉と、同じものを4人分注文するとソバ茶をすすった。
林は心配気な顔で、直海に小声で聞いた。
「あの2人、大丈夫かしら……」
「さあ、気持ち次第だろ。オレはセットアップするだけだから」
「そうは言っても……」
林は覗くように向こうの卓台を見る。お互い俯いたまま無言だ。
だが、直海は心配してなかった。山内には必要な指示はしてある。仕事でも女性でも要は〈奪う〉気持ちをアピールしなきゃ相手に伝わらないと。
山内も言われた事は十分理解していた。しかし、なかなかキッカケが掴めない。このままでは第1ステップもままならない。
山内は思い切って言った。
「今日は来てくれてありがとう。夏川さんと食事出来るなんて、思ってもみなかった……」
山内の〈浮いた台詞〉に、直海と林は吹き出しそうになる。
(まったく!もう少し気の利いた台詞を言えないのか)
直海は山内の方を見たが、目は真剣で笑っていない。余裕は無いようだ。
料理が運ばれてくる。更科そばに季節の天ぷら。
直海は、そばを何もつけずに口に入れた。そばの風味が口に広がる。
食事中、少しは緊張がほぐれたのか、山内と夏川の間で弾んだ声が交されている。直海にとっては思惑通りの良い傾向だ。
「ちょっと……」
席を立つ直海。山内の背中をポンッと叩いて、手洗いのある場所に消えて行く。
山内は直ぐに後をついて立つと、
「貞本さん、何か?」
手洗いを済ませている直海に山内は問いかける。
直海はハンカチで手を拭うとジャケットの内ポケットから、2枚のチケットを取り出し山内に渡した。
それは一青〇のコンサートチケットだった。