ヴァンパイアプリンス5-4
『あら、お帰りなさい。貴方。』
『おぉ…。何で宏樹泣いてんだ?』
『さぁ??』
『さぁって…ι』
父はポンポンッと僕の頭を撫でた。
『どうした?宏樹』
『お父さん…僕は…僕は普通の子じゃないの?』
『な…ッ!!』
僕は今日あった事を両親に話した。
『そうか…』
父はふぅとため息をつく。
『全てを話さなければならない時期に来てるのかもしれないなぁ。』
『…そうね。』
『何…?』
いつもはふざけてる父が、真面目な顔をするから…僕は怖くなって母にしがみついた。
『宏樹…お前はな、お父さんとお母さんの子供だ。そして、俺もお前も…吸血鬼なんだ。』
『え…吸血…鬼?』
小さい頃、母に読んでもらった絵本を思い出した。
女の人の生き血を吸って命を繋ぐ化け物。
鋭い牙。暗闇の中でも見える瞳。唇から溢れる真っ赤な血。
『嘘…嘘だ…』
『嘘じゃない…。』
『だって…僕今まで人の血を吸った事なんてない!!』
『お前には、トマトジュースに混ぜた血を毎日飲ませてきたんだ。』
『あ…』
確かに僕は、毎日トマトジュースを飲んでいた。いや、飲まされてきた。
『お父さんのお父さんもな、吸血鬼なんだ。ウチの家系の男は、全て吸血鬼の遺伝子を受け継いでいる。』
『じゃあ…雅人も?中野おじさんも?!有馬くんも…みんな…?』
『そうだ。』
僕は涙が溢れてきた。
『うぅ〜…』
『辛いか…辛いよなぁ。俺も…辛かったよ…。』
父は宏樹を沙詠子ごと、包み込んだ。
『いずれ…お前も本当の女の生き血を必要とする時がくる。俺が沙詠子と会えたように、全てを受け入れてくれる女性に必ず会えるから…。だから…全てを受け入れろ。吸血鬼だって事は、決して悪い事ではない。ハンデでもなんでもないんだよ』
父の声は震えていた。
『そうよ…宏樹。吸血鬼だって怖がる必要はないのよ?血を吸う以外は、普通の人間と何一つ変わらないから。』
母は温かかった。女の子の人の温もりが心地よくて…泣き付かれた僕は寝てしまった。
次の日、僕は学校に行けなかった。何だか急に、家族以外の人が怖くなったから…。人の目が怖くて、その日は朝になっても起きず、ベッドで丸くなっていた。
『宏樹。』
不敏に思った母さんが、午後僕を買い物に連れて行った。
『気分転換に-ね?』
母は僕の手を引く。
『うん…』
僕は人に見られてる気がして、なかなか前が見れなかった。
『着いたよ。』
母が僕を連れてきた所は、お洒落なお店だった。
『おいで』
中に入ると、甘いイイ匂いがした。
『宏樹…どれがイイかなぁ?』
母は宏樹を持ち上げた。
『眼鏡…』
『うん。でもね、本当の眼鏡じゃないんだよ。お洒落眼鏡♪』
『お洒落…眼鏡?』
『うん。かけてみる?宏樹、きっと似合うよ。』
母は少し考えて、レンズが一番小さくて黒渕の物を僕に渡した。
『うん…』
『お!!イイじゃん♪似合うよ!!よし!!それにしよう。』
『え…?僕いらないよ…。』
『嫌?』
『嫌っていうか…』
『独りでつけるの嫌だったら、お母さんも買う-♪』
母はう〜んと唸りながら、真剣に選び始めた。
『宏樹が黒渕だから-お母さんは赤渕にしよ-ッと。じゃ〜ん』
母は宏樹を持ち上げて、鏡の前に映した。