飃の啼く…第15章-3
「飃?」
居ない。
「飃!?」
返事も無い。
飃の服も、靴も…食器も、武器も無い…そして、匂いすら。
「飃ーっ!」
夜の街を、走り回りながら彼の名前を呼ぶ。
恐怖で胸がいっぱいになる。叫び続けたせいで息は切れて、声は掠れ始めてる。こんな寒さなのに、服のしたには汗をかき始めていた。
怖い。
彼が近くにいない。それも確かに怖いけど…
「・・・あ、れ?」
あれ?私、何してるの?
混乱して立ち止まる。
誰かを探してる…誰を?
こんな寒い夜に、何をわざわざ、声をからして、汗かいてまで…
「・・・!」
飃に決まってるじゃない!
この瞬間が怖いのだ。飃のことを、私が忘れそうになるなんて。
いやだ。いったい何が起こっているのだろう。どうしたら良いのかわからない……。手に馴染み始めた指輪もどこかに行ってしまった。一度も外したことは無いのに。それどころか、九重さえ見当たらない。
一人ぼっち…
「ど…どうしよ…」
一人ぼっちだよ…
その時…
「さくら殿…八条さくら殿…」
声のするほうに、はっと振り返る。誰もいない…いやだ、なに?
こんな時に一番頼りになる九重も無い、エーッと…あの人…そう、飃もいない…こんなときに襲われたら…!