The Hint Of The Storm-17
「そうだな。鎌を使う狗族なんておめえくらいなもんだ…それも、見事な鎌だよ。」
「見てたの?」
振り返りたい衝動をこらえて、夕雷に聞く。
「ま、危なくなったら手助けしてやらんことも無かったがな。どうにかなったじゃねえか。合格だ。」
それから、黙って進んでいくうちに、街の明かりが見えた。さっきまで明るく道を照らしていた月はいつの間にか隠れ、空は不穏な雨雲に覆われていた。
「おめえは狗族にはなれねえ…だが、俺たち鎌鼬とも違う…お前をただの狗族と舐めてかかる奴は後悔するだろうぜ…嵐の気配に気づかねえ愚か者のようにな…。」
遠雷のごろごろという音が、春の嵐の訪れを告げていた。夕雷は、僕の肩の上でその音をじっと聞いていた。そして、
「お前の名は…神立(かんだち)だ。」
「神立…。」
味わうように、賞賛し、眺めるように。そして、頭に戴くような気持ちで、その名を口にした。
「お前の選んだ道のりは…きついぞ。」
解ってる。
そして、後戻りするつもりは無い。
七番の過去は捨て、神立の未来を、これから歩むために…全て洗い流そう。全て燃やしてしまうんだ。
誰もいない、森のはずれで咆哮をあげて、雷鳴を呼んだ。振り出した大粒の雨は、埃っぽい春の大気そのものを洗うように、地上に降り注いでいた。