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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第15章-1

「…言った通りでは無いか。」

むせ返るような濃厚なムスクの香り。その煙は、空気中を上昇する蛇のようにくねくねとうねっていた。

擾の失態と、彼の犲の逃走。おまけに、勝手に妙な毒を使って大事な女の命を脅かすと言う暴挙に続く蚩の死が、獄の滑らかな額に一筋のしわを刻む。

…正直、ここまで成長するとも思っていなかった。不愉快ではあるが、飃は相当あの小娘に入れ込んでいるのだろう。同時に、あの女はかなりの精神力の持ち主であり、狗族の血を引く珍しい人間でもある。全てを踏まえて見直せば、澱みの読みが甘かったのは認めざるを得ない。

だが…それが逆に彼の主人の興味を引く要因ともなっていたのだ。

「は…おっしゃるとおりで…獄様は読み間違えるということがございませぬゆえ…。」

明らかな追従に、獄は眉を上げて、続けた。

「で?お前には算段があるようだな?」

床に這い蹲ったそいつは、さらに頭を床にこすり付けて言った。

「我々、蛇は、時間や空間を自由自在に行き来する鏡の術を持っております…それで、まだただの餓鬼に過ぎないあやつらを始末してしまえば…」

「邪魔者は消える、と。」

あとを継いだ獄の言葉に、ははーっ!と恐縮する男。ふん。這い蹲るのが蛇の本分というわけだ、と獄は思った。

「殺す必要は無い。」

「は…?」

主の意外な言葉に、思わず耳を疑う。

「殺さずとも良い、といったのだ。御方には御方の計画というものがある…あの女を殺されては都合が悪いということだ…男のほうもな。」

有無を言わさぬ獄の口調で、蛇はさらに少し縮んだようだった。獄は、そんな蛇の様子には目もくれずに、昔の飃の様子を思い浮かべて独り悦にいっていた。あの邪魔な女と飃が出会わなければ、あいつを攻略するのももう少し簡単になるかもしれないと思いつつ。



それに、万が一この作戦が失敗しても、「保険」はある。





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「あれ?」

その腕輪に気づいたのは桜のつぼみも膨らみ始めたある日の夜。私の指導の下行われた月に一度の大掃除を終えて、お風呂のカビ取り剤の強力な匂いで弱った飃の鼻へのお給料代わりに作ったいなり寿司も美味しく食べ終わった夜11時。

ソファに座ってくつろぐ飃の腕に、薄汚れた腕輪がはまっている。いつの間にこんな腕輪を…?しかも、かなり古いものだ。



そして、私はそれに見覚えがある。


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