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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The Hint Of The Storm-16

若葉に駆け寄って助け起こす。意識は無いが心臓の音はちゃんと聞こえた。どうやら気を失ってしまったようだ。

木の葉を揺らして吹いた風に、まだぶすぶすと音を立てていた澱みの残骸は塵となって消えうせた。やはり、僕の鎌と八条さくらの薙刀とでは澱みに対する効果が違うようだ。

規則正しい呼吸の音に、安堵のため息をつく。

安堵。ここ数年で、こんなに深く息を吸ったり吐いたりしたのは初めてかもしれない。

僕は若葉を負ぶさって、イナサの家の前まで運んだ。





「怪我は無いと思うけど…心配だし、怖い思いをしたから、目が覚めたら手当てをしてあげてください…。」

―僕の代わりに。

「よいのか。お前はようやく自分の居場所を見つけたのでは…ないのか?」

僕は、彼女と目を合わせなかった。イナサの声は、ひどく優しくて…

「彼女が目を覚ましてしまったら、決心がつかなくなっちゃいますから…。それに…」

若葉のおびえた表情が、頭の中に浮かんでは消えた。

「これ以上ここに居ると…またみんなに迷惑がかかる…。」

暗がりの中から、イナサの低い声がした。

「そうか…。」

僕が戸口から出て行こうとすると、背中に向かって、イナサが言った。

「世話に、なったな。名も無き戦士よ。」

え…?と振り返る。

「番号は、狗族の名ではない。お前もいつか、自分の風を見出すときが来るのだろう。」

そして、にっこり笑った。

僕は、滲んだ視界を手の甲で拭って、お辞儀をして…村に別れを告げた。永遠に、戻ってくることは無いのだろう。ここは優しい。とても優しい場所だけれど、僕の居場所じゃない。



「結局、おめえは何者なんだ?」

森を抜けて町へ向かう道の、とある木の上から聞き覚えのある声がした。

「夕雷!…さん。」

「夕雷でいい。で?答えは見つかったのかよ?」

僕は首を振った。その首に、小さな重みを感じて、夕雷が僕の頭に乗ってきたのがわかった。

「そうだろうな。」

「自分が狗族になれたらどんなに良いだろうかと思う…でも、僕は狗族じゃない…少なくとも、今はまだ。」

くくっ、という笑いが、幽かな振動となって伝わってきた。


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