10年間の支配。(第一部、最初の1週間)-4
運動部の男子部員達だ。6人ほどいた。
奈緒美は立ち止まった。だが、恥ずかしいので下を向いてうつむいている。
「お前何やっんの?」
「いや、あの・・走ってるんです。」
「なんで手と足にそんなんつけてるの?新しい練習法?速歩の練習だろ?」
「えっ、いや、とくに理由は・・・」
「それになんで制服きてんの?」
「えっ、あっ、まだユニフォームとか体操服とか貰ってなくて。」
奈緒美は思いついたのでそう答えた。
「ふーん、お前、転校生なんだってな。早くなんかの部に入って練習したほうがいいぜ。」
「何言ってんだよ、こいつ絶対Mだよ。どうだ?今夜俺んとこ来いよ。可愛がってやるぜ。」
「やっぱり!俺もそう思ってた。え?どうなんだよ、そうなのか?」
「違います!バカにしないで!」
奈緒美は男子部員の間を強行突破して走りだした。
焦ってはしった奈緒美はしばらくして足錠のせいで転んでしまった。
奈緒美のセーラー服のスカートは土で汚れてしまった。
「あーあ、かわいそうに。まあキバレや。」
部員達に失笑されながら奈緒美は立ち上がり、走りだした。
その後も笑われながらなんとか10週走り終わり、手錠足錠姿で校長室へ戻った。
「終わりました。これ(手錠と足錠)をはずしてください。」
奈緒美が黒金に言った。
「はぁ?今ので終わったと思ってるの?君、途中で立ち止まって男と話してたよね。」
「はい・・・」
「じゃあダメ。もう一回やり直し。さっさと行ってこい!」
黒金は奈緒美の顔に机の上にあったコップの液体を投げかけた。
「きゃ!」
奈緒美の顔に液体がかかる。
セーラー服のスカーフも濡れてしまって変色した。
液体はコーヒーだった。冷めていたので火傷はなかったが、奈緒美の上半身はずぶ濡れだ。
たぶん最初から奈緒美にかけるつおりだったのだろう。かなり大きいコップだ。
奈緒美はうつむたまま、自分の髪の毛からしたたれるコーヒーの雫を眺めて悔しがっていた。
「あっ、それから誰が手錠を前手にかけていいと言った?後ろ手だよ後ろ手!」
黒金は奈緒美の右手の手錠をはずした。
「両手を後ろに回せ」
奈緒美は素直に両手を後ろに回す。
黒金は容赦なく後ろ手の奈緒美に手錠をかけ直した。
「よし、もう一回行ってこい。それに今度は誰とも話しちゃだめだ。話したり、立ち止まったりしたらやり直しだぞ。
何週でもやり直させてやるぞ。今日は家に帰れるかな?フフフ・・・」
奈緒美はようやく黒金の命令に従うことの意味を理解した。
(こんなんじゃ、私は普通の高校生活なんて送れない。ちょっとでも期待した私がバカだった・・・)
奈緒美がぎこちなく後ろ手で校長室のドアを開け、校庭に行こうとしたとき、黒金が言った。
「ちょっと、これもつけて走ってくれる?」
黒金が取り出したのはこの学校のセーラー服に付属のスカーフだった。
色はいろいろあったが、黒金が持っているのは黒のシルクのスカーフだ。
「今のスカーフを取って、それをつければいいんですね?」
奈緒美はなんの疑いもなくそう答えた。
「申し訳ないですが、スカーフ取り替えてもらえますか?後ろ手じゃあスカーフ変えられないので。」
奈緒美はコーヒーで濡れたスカーフを交換してもらえると思っていたのだ。